第29話 幽霊の続き

今のところ、まだ何もわかってない。

ちょいちょい桃代が脱線するからだ。

相変わらず疲れるヤツ。


桃代が話した、本家の権利ってなんだ?

どうして桃代を滝つぼに投げ込んだ? 普通に殺害すればいいはずだ。

窒息させて首吊り自殺に見せかければいい。

分家の中には警察署長のざいえんが居る、アイツに後始末をさせればいい。

最初のミイラ事件を、そうしたように。


話せば話すほど、疑問が山ほど出てくるが、予定通り桃代のことを優先しよう。


「なあ、モモちゃん。あなたが幽霊のように、消えたり浮いたりするのはどういう仕掛けだ?」

「え~~それは、幽霊の企業秘密でしょう。知りたいのなら、特許使用料を払ってもらわないと」


「いいか桃代。おまえは幽霊ではない。そして幽霊は企業じゃない。幽霊の特許申請を受け付ける特許庁は日本に存在しない。真面目に話す気がないのなら、俺はおまえの力にはなれない。どうする?」

「あうっ、ごめんなさい。真面目に話します、聞いてください」


「そうか、じゃあ頼む。物知ものしりな桃代姉さん」

「えへへ、それよ、その言葉が聞きたかったのよ。では、桃代姉さんの講義を始めます。一応確認するけど、紋ちゃんは龍神様に会ったのよね?」


「うん、まあ、ヤツのおかげで多少の事は思い出したからな。かなりふざけたヤツだけど、妙に気が合うヤツだったぜ」

「そう、今は元気になったけど、わたしが当主になって久しぶりに見た時は、それはもう痩せ細って死にそうになっていたわ。まるでガリガリヘビよ」


それはガラガラヘビと掛けてんのかッ、そう言いたい気持ちを我慢する。

桃代が脱線すると面倒くさいから、ツッコまない。


「高度成長期から随分と酷使こくしされていたみたいで、わたしが当主になった時は、もう餓死寸前だったのよ」

「なあ、それはモモの先代、蘭子さんの時はどうだったんだ? あの人もヤツを酷使こくししてたのか?」


「そうね、わたしは次期当主として、紋ちゃんに巻き付いた大蛇おろちの事を教えてもらったわ。でも、紋ちゃんの母親の菊江さんが亡くなってから、マミーは段々おかしくなり始めたの。酷使はしなかったけど、お供え物もしなかったわ」

「そう言えば、蘭子さんは何時いつ、どうやって亡くなったんだ? どうして俺は葬儀に呼ばれなかったんだ」


「もう! 紋ちゃんがそうやって色々聞くから、わたしが脱線するんでしょう。マミーの事はわからない。何かに取り憑かれたように、奇声を上げながら山に入ってそのままよ。山狩りをしたけど見つからなかったわ」

「そうか、ごめん、つらい事を思い出せたな。もう余計な事は聞かないから、続けてくれ」


「わたしは当主になってから、毎日食べ物を差し入れたわ。紋ちゃんが居なくなった原因の大蛇おろちが、元気になったらコブラツイストを掛けてやるつもりで」

「ぐッ、う、うん、そう。でも龍神のヤツ、凄く桃代に感謝してたぜ」


ヤバかった。危うく、ツッコみそうになった。

ニョロニョロしたヤツに、コブラツイストが効く訳ねぇじゃん。

コイツは重要な事を聞くと怒るくせに、不要な事をぶち込んでくる。


「体力が回復した大蛇おろちは、龍神様に進化したわ。それはもうピカチュウがミッキーマウスに進化するような感じよ」

「あの~桃代さん。その変なたとえはやめてくれません。内容が頭に入ってこないです」


「もう! がままね。わかりやすく説明してるだけなんだから黙って聞きなさい」

「はい、すみません」


耐えろ紋次郎。

この程度、真夏にやったゴミ屋敷の掃除そうじに比べれば、如何どうという事はないだろう。


「ねえ、紋ちゃん。紋ちゃんは光学こうがく迷彩めいさいって知ってる?」

「まあ、イカとかタコがそうだよな。まわりに同化して見つかりにくくする擬態ぎたいだろう」


「そうね、地上だとカメレオンなんかもそうだね。でも、龍神様の光学こうがく迷彩めいさいはもっと凄いのよ。全く違和感無く見えなくなるからね」

「そう、でもモモは龍神とは違う。そんな特技は持ってないだろう」


「そうね。じゃあ、紋ちゃんに質問。イカやタコは何処どこの部分が変化して見えなくなるの?」

何処どこの部分って表面の皮だろう。テレビで色が変わる実験を見た事があるぜ」


「そうよ、龍神様もそう。でも皮ではなく鱗が色の変化をするの。龍神様はわたしの危機を察したようで、鱗を数枚渡して加工法を教えてくれたの」

「鱗? 加工? なにそれ? あんなモノ、身体からだからがすと役に立たないだろう」


「だからね、加工法があるんだよ。まずは鍋に入れてやわらかくなるまで水で煮るの。それを糸の細さになるまで伸ばしたら、もう一度鍋に戻して血をらすの。それを布状にしたのがあの包帯よ」

「ハァ? 何言ってんだモモ、頭は大丈夫か? って、言いたいところだが、非常識なヤツが存在してるんだから信じるよ。でも、アイツは鱗をがして大丈夫なの?」


「うん、普通の鱗は問題ないんだって、ただ逆鱗だけは特別なんだって」

「ふ~ん、きっと、俺にはわからない理由があるんだな。あと浮かぶ方法は?」


「あのね紋ちゃん、西洋のドラゴンには翼があるけど、東洋の龍には翼がない。でも空を飛んでるイメージがあるでしょう。それはね鱗には浮遊する力もあるから。わたしの血を吸わせて作った包帯は、わたしの意志に反応してくれて、姿を消したり浮いたり出来るの」

「そう言えば、龍神のヤツも浮いてたな。俺にはり倒されて地面に転がってたけど」


「うそ! 紋ちゃん、そんな事をしたの? 気を付けないと、そのうちバチが当たるよ」

「いいか桃代、自分をたなに上げて喋るな。プロレス技を掛けようとしたり、アニメのキャラにたとえる、おまえの方が余程バチ当たりだぜ」


桃代が生きている言質げんちは取った。

あとは俺が桃代を守ればいい。そして桃代より早く死ねばいい。


そうでなければ、ミイラ作りをさせられる。



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