第25話 思い出

また来る約束をして、俺は龍神のあとにした。

龍神に正規の出入り口を教えてもらい、出た場所は大蛇おろちつかの裏だった。


塚のうしろにある岩をズラすと中にりる道が出て来たが、塚の掃除をした時にどうしてこの仕掛けに気付かなかったのだろう? 塚の周りに木のかこいがあるから? それとも俺がバカだから? まあ、なんでもいいや。


それでも、俺は山をくだりながら考える。

何かが引っかかる。何がだろう?

塚の仕掛け? そんな些細ささいな事ではない。


幼い頃の記憶と同じ【思い出そうとして思い出せない】そんな感じだ。

考えながら歩いていたので、途中で何かにつまづき転びそうになる。

3回何かにつまづいて、前のめりになった時に、やっと気が付いた。


桃代は滝の裏にある、穴の事を知っている。

俺の頭とは違い、ヤツの頭の中には俺と遊んだ記憶があるのだから。

それなのに、穴がある事に気付くような場所でうしろから抱き付くから、俺は前のめりに沈んで、結果的にあの穴を見つけた。


何故なぜだ? 当主の俺に大蛇おろちの存在を教えるのなら、正規の入り口を教えればいいはずだ。

わざわざ、滝の裏にある抜け穴を教える必要は無い。

神社で話をした時に、どうして大蛇おろちを教えなかった?


何かちぐはぐだ。

まだ、俺の知らない何かがかくれている気がする。

桃代は自分の事を思い出して欲しいが、そのかくれている部分を思い出して欲しくない。

そういう事なのかもしれない。

どれもこれも俺の推測だ。


昔の記憶を思い出した、それを桃代に話していいものか? それすら判断が難しい。

でも、まあ、うじうじするのはしょうわない。

桃代には折りを見て話そう。


だが、思い出せない記憶もある。

俺は桃代に何をプレゼントしたのだろう? 

あの不平等なおかずのトレードくらいしか思い当たらない。

あれをプレゼントとするには無理がある。

一方的に桃代がブン取ったのだから。


思い出した。

金時豆とウィンナーの時もそうだが、アイツがブン取る時にれる講釈が、また強引ごういんなのだ。

すっぱい物は体に良い、そう言いながら、梅干しと玉子焼きのトレード。

これを食べればポパイのように強くなる、そう言いながら、付け合わせのホウレン草とメインのハンバーグとのトレード。


ちょっと笑える。

当時の俺は、桃代姉さんは物知ものしりだな、そんな風に感心していたのだから。

そうそう、呼び方も、桃代姉さんと呼ぶように強制されたっけ。


そんな出来事を思い出しながら戻ると、家の中は静かなままだった。

桃代が出てこない。

昨日夕方出掛けたきり、顔を見せてない。

まあ、朝一で避けていたのは俺だけど、何かイヤな予感がする。


桃代に関する記憶を思い出したので、俺は心当たりのある桃代の部屋を、そろそろあばいてやろうと考えた。

その前に、龍神と話した内容をノートに書こうとした時に、リュックの中のスマホが鳴った。


取り出して画面を見ると、松慕まつぼの名前が表示されていた。

分家筆頭の松慕まつぼ、経営していた自動車修理会社を息子に譲り、今現在は町議会議員を務めている。

衣料品店のオヤジに聞いた情報だ。


取りあえず、何の用件なのか出てみる事にした。


「もしもし、真貝ですけど。どうしたんですか松慕まつぼさん」

「あっ、御当主様。こんにちは、先日は突然押しかけて失礼しました。それでですねそのあの時のお約束は、いかがいたしましたでしょうか?」


松慕まつぼさん、用意が済んだら俺の方から連絡をする。そう言ったでしょう。せっかちなんだから。まあいいです、逆鱗の写真は撮影済みです。バラバラに来られても迷惑なので、前回の人達を松慕まつぼさんの方で招集して下さい」

「わかりました、こちらで招集をかけます。ただ、申し訳ありません御当主様。前回の者たちを招集するのは無理なのです」


「無理? どうして無理なんですか? 俺も暇じゃないので一人ずつ相手をするのは嫌ですよ」

「はい、それはもちろん理解しております。ただ代替だいがわりをした分家がありまして、ですからその分家だけ、あといだ息子がお邪魔する事になります」


「へぇ~そっちの方でも代替だいがわりがあったんだ。何処どこの家が替わったんですか?」

「はい、坊主の草生そうせいのところです。息子が跡目あとめぎました」


「ふ~ん、和尚ってまだ60歳位ですよね? 隠居いんきょするには早過ぎません?」

「あっいえ、そういう事ではないのです。隠居いんきょしたのではなく、くなりました」


「!!亡くなった? いつ? どうして? あの時は元気だったのに?」

「はい、そちらに訪問した翌日です、息子の嫁が草生そうせいを起こしに行くと、すでに往生していたという事です」


「そうなんだ・・・それで、お葬式は? 俺も出た方がいいよね?」

「それなんですが、事後報告になって申し訳ありません。通夜葬儀すべて終了しております」


「そう、まあ、そうだよね、何処どこの誰ともわからない俺が出たら、具合が悪いですからね」

「い、いえ、決してそういう訳ではないのですが・・・すみません」


俺に気を遣ってくれたのか、松慕まつぼは最後に言葉をにごした。

そして、他の分家と連絡を取り、調整が出来次第、再度連絡をします。そう言って電話を切った。

草生そうせいの死因など聞きたい事もあるのだが、他の奴らが俺を当主として認めてない。

そんなニュアンスが感じ取れたので、聞くのをやめた。


ここは俺が思った以上に閉鎖された田舎だ。

本家だの分家だの、人間関係が面倒臭い。


冷たいかも知れないが、一度しか会った事のない親類縁者の生死に、俺は興味がない。

興味があるのは死因だけだ。

解体屋のオヤジの死因もそうだが、松慕まつぼが言った能面の呪いのようなもの、本当にそんなものがあるのだろうか?

それは今のところわからない。


それよりも、早く桃代の事をなんとかしないと。

それなのに、アイツは何時いつまでとぼけるつもりなんだろう?


龍神との会話を思い出しながら、ノートを書いてる時に気が付いた。

草生そうせいが死んだ日の午前中、あざみ商店の前であざみを見ている。

そういう時は一番に親類縁者が駆けつける。そんな気がするけど、どうなんだろう?

そろそろあざみが喋る気がする。


桃代の件が片付いたなら、餌を投げてみようと思う。


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