ブランチ

ビショップ(bishop)

第1話soup

既に高くなっている陽光。


約束の夕食が重くなりそうなので、遅いブランチは軽めにする。

キッチンで、小ぶりのホーロー鍋を用意すると、コンロに載せる。


冷凍庫からプラスチック容器を取り出す。

蓋を開けて少し置いておく。

その間に、リヴィングに行って、隅の小さな耐火金庫の前にバスローブの膝をつく。


盗難防止を当てにしているワケではない。

火災や爆発など万一の際、データ復旧に手をとられたくないだけ。

まあ、冗長化しているから、これが駄目でも復旧の手立てはある。


暗証コードを押して扉を開ける。

耐火金庫の中から、ノートパソコンを取り出し、ソファの前のテーブルに置く。

ノートパソコンを開くと、電源を入れる。


立ち上がる間にキッチンに戻る。

冷蔵庫を開けて、野菜室から小さな容器を取り出す。

その容器を、ノートパソコンの脇に置いておく。


それから、脱ぎ散らかした上着、シャツブラウス、タイトスカート、パンティストッキングをソファから拾い上げて、バッグをバスローブの肩にかける。


寝室兼衣装部屋に入ると、一つずつハンガーに通して、クローゼットの扉のフックにかける。

バスローブの肩からバッグをおろして、クローゼットの引き出しの上に置く。


キッチンに戻る。

汗をかいているプラスチック容器から、紅い塊をコンロのホーロー鍋に空ける。

コンロに火を点ける。


紅い塊の周りに小さな泡が立ちはじめる。

ターナーで塊を二つに割る。それぞれを、もう一度ターナーで割る。

小さくなった四つの塊がクツクツいいはじめると、あたりにおいしそうなトマトスープの香が漂う。

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