書庫の掃除を行う
翌日の早朝だった。俺はカタリナから忠告を貰う。彼女の家で生活をしていく上での言っておきたい事があるそうだ。
「言っとくけどな。『魔法が使えない』からって、あたしはお前が何もしないでいいなんて思っていない。食って寝るだけなんて、猫でもできる事だ。あたしは猫を飼い始めた覚えはない」
俺はカタリナの家に住まわせて貰う事になった。だからと言って、何もしないわけにはいかなかったのだ。
「『魔法が使えない』だなんて、そんな事を言い訳にするな。お前にはお前に出来る事があるはずだ」
「はいっ!」
俺は背筋を伸ばして答える。
「炊事。洗濯。掃除。それから私の研究の手伝い。お前は今日からうちの召使いだ……心してかかるように」
俺はカタリナに命じられる。タダ飯が食える程、世の中というものは甘くなかった。俺はこの家の召使いとして、労働をする事になったのだ。
――だが、俺は考える。元々、俺は実家であるユグドラシア家で召使いのように働いていたのだ。『魔法が使えない』俺をのうのうと生きさせる程、あの父親が甘いはずもなかった。
つまり、条件としては何もなかったのだ。口調は怖いとはいえ、心根は明らかに優しいカタリナと一緒に生活する方が、余程、健全な生活が送れそうなものである。
願ったり叶ったりとはこの事だった。
こうして俺の新しい生活が始まるのであった。
◇
俺は朝、カタリナより早く起きて料理を作り、提供した。彼女はおいしいと言ってくれた。彼女と一緒に食事を済ませた。
そして、洗濯をする。
「……なんだ、これは」
洗濯物の中にあったのは、黒い布切れのようなものだった。
「こほん!」
カタリナは大きく咳払いをした。
「これは私の方で洗濯する!」
そう、顔を赤くして言った。
ああ……。
俺は理解した。母が死んでからというもの、ユグドラシア家には女性は一人もいなかった。故に、洗濯物の時に、存在していないものが存在したのだ。
あれは女性用下着(ブラジャー)というものであろう。そのサイズから何となく、カタリナの胸の大きさを把握する事ができた。
まぁ……パッドでもしているわけではないなら、服の上からでも大体の大きさ(サイズ)は分かるが。
ユグドラシア家と同じような雑務を行っているのに、彼女の家というだけでどこか新鮮に感じられた。仕事の内容など似たり寄ったりではあるが、不思議と嫌ではなかった。俺は喜んでそういった仕事をしていたのだ。
やはり、一緒にいる人の存在とは大きいだろう。彼女は『魔法が使える』にも関わらず『魔法が使えない』俺を決して見下す事がなかったのだから。実家にいた時に比べれば心境としては大違いであった。
そんな充実した日々を行っていた時の事だ。
「次は書庫の掃除をして貰おうか」
俺はカタリナに指示される。
「書庫ですか? ……どこにそんなものが」
「地下にあるんだよ。後で案内する」
俺はカタリナに連れられて、地下室へと行った。
◇
地下室にある書庫には膨大な数の本があった。それはまるで図書館のようで、とても個人宅にあるとは思えない程の書物の量だった。流石は『魔女』と呼ばれるカタリナの書庫だ。彼女の叡智の源泉なのかもしれない。この書庫は。
「……ここら辺に適当に散らばっている本を順番通りに本棚に揃えてくれ。後は床の掃き掃除と、本棚に積もっている塵の掃除をするように」
「はいっ!」
こうして、俺は書庫の掃除を行う事になった。
そしてそこで俺は運命の出会いを果たす事になる。書庫の掃除の際に、偶然俺は見つけたのだ。一冊の本を。
そう、それは召喚魔法に関する、魔導書だった。
この一冊の本をきっかけに、俺の人生は大きな転機を迎えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます