「魔法が使えない無能」と実家を追放された少年、世界唯一の召喚魔法師として覚醒する~魔法学園では劣等生として蔑まれましたが、規格外の召喚魔法で無双します~

つくも

序章

15歳の誕生日に実家を追い出される

「15年……アレクよ。お前がこの世に生を受けて、15年の月日が流れた」


 ついにその時はやってきてしまった。その日は俺——アレク・ユグドレシアの15歳の誕生日だった。だが、決して喜ばしい日ではない。俺にとって、15歳の誕生日は『期限日』だったのだ。


 父――ダニエルの顔は苦々しかった。誕生日ではあるが、祝いの言葉などその口から発せられる事はない。


「15年もの間……私は良く耐えた。良く辛抱したと言える。だが、その辛抱には限界がある。ついぞ、この15年の時の間に、貴様が魔法の才に目覚める事はなかった……」


 父は淡々と告げてくる。


 ユグドレシア家は魔法の名門だ。父も死んだ母も世界でも有数な魔法師だった。その父と母の間に生まれた俺もまた、相当な期待を背負って生まれてきた。


 ――だが、俺はその期待に応えられなかった。その期待という十字架は俺に重たくのしかかってきたのだ。


 俺が魔法の才能に目覚める事はこの15年間でついになかったのである。どれほど努力しようが、血反吐を吐こうが、一度足りとも。俺は魔法を行使する事ができなかったのだ。


 魔法——それは誰も行使できる、平凡な力。この世界では誰もが魔法を使える事ができる。だが、どういうわけかは俺にもわからない。俺だけは魔法を使う事ができなかったのだ。


「……ま、待ってください! お父様! 俺はまだ諦めていないですっ!」


 俺には自分の可能性を諦められない、理由があった。それが俺が5歳の頃だった。母――マリアが亡くなった。


 死ぬ時の母との約束を今でも覚えている。母は俺の事を信じていてくれた。


『アレクは立派な魔法師になれる……お母さん、信じてるから』


 どれほど魔法が発達しようと、逃れられないものがある。それは人の死だ。魔法では癒せない深い傷や、病も存在する。


『うん……お母さん。僕、絶対、立派な魔法師になるよ』


 死ぬ間際に、俺は母と約束をしたのだ。母と誓ったあの日の約束を俺は破るわけにはいかなかった。


 誰も俺の可能性を信じられなくても、俺だけは自分を信じなければいけなかったのだ。


 ――だが、父からすればそうではない。父の忍耐には限界があった。父は期限を設けていた。その期限日は15歳の誕生日、つまりは今日だ。つい、俺は魔法の才に目覚めないまま、15歳の誕生日を迎えてしまったのだ。


「お前は諦めてないのかもしれない……だが、もう私はお前を諦めた。お前には僅かばかりの期待も持てない。我が栄光あるユグドレシア家から出ていけ、アレク」


 俺は非情にも告げられる。あまり我慢強くない父にしては、これでも耐えた方だろう。俺の僅かばかりの可能性を信じていたのだ。だが、父の中では既にその可能性はなくなった。


「どうするって……ユグドレシア家はどうするんですか! 魔法の名家であるこの家系は、一体、どうするつもりなんですか!」


「……5年程前に、養子を取ったのを覚えているだろう?」


「サイファーの事ですか……」


 俺には義弟がいた。義弟の名はサイファーと言う。サイファーは俺にとっては血の繋がらない弟だ。当然のように、ユグドレシア家の血脈とは関係がない。血縁関係からすれば、赤の他人と言ってもいい。他人ではあるが、不慮の事故により息を引き取った両親は、相当な魔法師だったらしい。


 その才を受け継いだ義弟サイファーは、俺とは異なり、類稀な魔法を遺憾なく発揮していた。


「ああ……そうだ。5年前の時、既に私はお前をある程度見切っていた。だからサイファーを養子として引き取ったのだ」


 カツカツカツ。歩き音が聞こえる。靴が床を叩く音だ。薄暗闇の中から俺の義弟サイファーが姿を現す。


理知的な印象を受ける少年だが――どこか冷たい感じがした。特に俺に対して、見下したような視線を送ってくる。やはりそれは、自身が魔法の才を授かっている自負があるからだろう。だから魔法の才を授かっていない俺を見下してくるのだ。


「兄さん……安心して出て行ってくれよ。ユグドレシア家の家督はちゃんと僕が継ぐからさ。クックック」


 サイファーは俺を嘲け笑う。


「本当に俺をユグドレシア家から追い出すつもりですか……俺は諦めていないっ! 俺は立派な魔法師になるんだっ! そう、母さんと約束したんだっ!」


 俺は涙が流れそうになるのを必死に堪えた。


「おいおい、見苦しい事言うなよ。兄さん。聞いたところ、兄さんは生まれてからこの方、一度たりとも行使する事ができなかったそうじゃないか」


 サイファーは魔法を行使した。


「ライティング」


 『ライティング』——魔法で光球を出し、周囲を照らす初級魔法だ。サイファーは俺が決して届く事がなかった魔法を平然と見せびらかしてくる。


「あっ……ああっ……」


 遠い、目の前に。すぐ近くにある魔法が俺にとっては果てしなく遠い。手が届かない。目に見える距離にあるのに、決して届く事はない。こんなに惨たらしい事がこの世にあるものだろうか。いっその事、魔法なんてものがこの世になければ、決して


「くっはっは。だって兄さんは、子供でも使える、こんな『ライティング』の魔法も使う事ができないじゃないか? そんな体たらくで、この魔法の名門であるユグドレシア家の世継ぎになれるはずがないだろう?」


 サイファーは俺を嘲ってきた。だが、サイファーの言っていることも最もだった。魔法の名家の世継ぎが、魔法を使う事ができない。そんな事がまかり通るはずもない。


「だからさ……安心して出て行ってくれよ。兄さん。いや、もう、君のような魔法も使えない無能を『兄』呼ばわりするのも勿体ないよなぁ。アレク、出て行ってくれよ。君のような無能の顔はもう見たくないんだよ。お父様も出ていけって言ってる事だしさ」


「くっ……ううっ」


 言い返せない自分が悔しかった。魔法の才がない俺が何を言ったところで、負け惜しみにしかならない。


「それじゃあね。無能のアレク。来世では魔法の才に恵まれる事を祈るんだよ。現世では無理だろうけどね。クックック! アッハッハッハッハッハ!」


 サイファーの哄笑がユグドレシア家に響き渡る。


 こうして俺はユグドレシア家を追われたのだ。


 ◆


作者です。お読み頂きありがとうございます。作者のモチベ向上の為、☆☆☆を三つにして入れてくれると嬉しいです。よろしくお願いします。

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