第44話 戻った

 徐々にと言われたが、実際には急だった。


 すぐに平社員になり、あっというまに高梨さんが山下さんになり、僕は彼女のいないただの会社員になった。ジャイアンツは二位に落ち、そう、おじさんはお墓に無事に入った。


 馬券を買えば、本命でさえも当たらず、株は下がった。

 電車は座れなくなり、スーパーのレジは他の列のほうが速く見えた。

 二日酔いは復活し、若白髪も復活し、水虫だってまた顔をだした。

 仕事もたまにミスをするし、取引先との打ち合わせ時に限って電車が遅れた。

 社内論文にも吉沢が受かり、海外出張にこの前出かけていった。

 以前は何とも思わなかったこんなことが、今は不運に感じるよ…、いけないな。


 だけどね、何があっても切り替えて、めげないでいかないと。これは僕の本当の人生、僕の意思で左右できる人生なんだからさ…。


 そう、ほんのちょっと…、ちょっとだけ舵をきれば、動かせば、きっと違う人生航路が見えてくるんだよ、きっと。

 その気になれば変えられるってさ、言ってたよね、天使のガブちゃん。


 僕は、今までの航路を変えることに決めた。

 角度は数度だけど、行き慣れた、生き慣れた航路を変えるのは、本当に勇気がいる。


 難しいけれど、決めたことだから、僕は舵をきった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る