第40話 推測ですよ(2)

「ほとんど…?」

 僕はさらに訊いた。


「ほとんどです」

「嘘、言えないんだよね、天使って…」

「はい、天使は嘘は申しません!」

「神様…、ガブちゃんの報告書見てさ、少しは反応するんだよね、ほとんどないけれど」


 あらためて、ニコって笑うガブちゃん。


「反応と呼べるかどうか…、嘘も言えないし…。なのでほとんどという言葉をつかいました。さすがですね、小杉さんはすごいです」


「どんなことがあるの? どんな反応するの?」

 また天を見るガブちゃん。

「ほとんど反応がないんです…、それが反応といえば反応なのです」

 どうゆうこと? 僕は首をひねってみせた。

 またニコって笑うガブちゃん…。


「小杉さんはどうなのかわからないですけれど…、以前提出した自分の報告書って読みませんか?」

「あるある、コピーしたりね」


「継続の方の分は当然見直しますし、拒否された方のは同じ種類の生物を対象にした場合の参考にしたりします。それに、自分の丹誠こめた報告書って思い入れがあるので、時間のあるとき見たりしますよね」


 僕はうんうんと頷いた。気持ちはよくわかるよ。

「我々の世界では報告書は自分の手元に残したりする必要はありません。自分のものでしたらいつでもデータベースから閲覧できるのです。ただ履歴を残さないといけません。読む都度にです…」


「ふ~ん…」

「この仕組み、上司はちゃんと読んでいるのかな…ってある天使が言っちゃったもんだから、『ちゃんと見ているぞ!』という証拠を残すため作られたんですよ…」


「ふ~ん…、神様を疑う天使もいたんだ…」

「身の程知らずって言うんですかね…」

「それで、神様はちゃんと報告書見てくれていて、その履歴もあるんだ…」

「はい…、で、本題ですが…」


 うん…

「上司…、読んでます」

「そりゃあそうだろ…」


「いや、あの…。複数回読んでいるんです…」


「神様ってもの覚えわるいの?」

「なんておそれおおいい!記憶力はコンピューター以上ですよ!誰だと思っているんですか?神様ですよ」

 さすがに僕も恐縮した。神様を疑ってはいけないね。


「そりゃそうだけどさ…、そんな神様がなんで複数回よむの?」

 その回答ではなく、ガブちゃん話しを続ける。きっと”きり”が悪いんだろう…。


「それで小杉さん。上司が読みかえすのは、拒否された案件ばかりなんです…」

「うん…?」

「継続中のものは複数回ご覧になりません。拒否された分だけです…。また、継続から拒否に変わったものも読みます。というか、読んだ履歴が残っています」


「そう…、で、それが神様の報告書への反応?」

 また、ニコってした。

「ハイ!」

「それだけ…」

「ハイ、それだけです…」

 う~ん…


「小杉さん!記憶力がいいのになんで複数回読むんだろう…って思われていると思います。ね、そうですよね」


 うん、わかっているんだな…

「読み返す必要なんて、上司は全然ありません…」

 うん…そうだよ。

「でもですね、小杉さん…」


 あいかわらずニコってしている。

「ジャイアンツが優勝したときの新聞って同じ記事を何度も読んだりしませんか?新聞とっておいたりしませんか?」


 そうだ、とっておいたりするね。同じような記事なのに何紙もスポーツ新聞買ったりするね。

「それって、なぜですか?」


「そりゃあ、うれしいから。何度もうれしさを味わえるじゃない…。気持ちいいよね。って…、神様もそうだっていうの?まさか…」

 ビールをぐっとあけるガブちゃん。


「上司は繰り返し読む必要はまったくありません。でも読んでます。推測ですよ、推測…。推測ですが、うれしいんじゃないですか、上司も…」


 推測ね~、ガブちゃんまだ笑っている。

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