第21話 酔いが覚めた
「悪いね、吉沢さ…。あれ、部長、吉沢にやらせようってずっと考えてたかんじだったね…」
夕方に行われた新プロジェクトの会議。
ネット販売専門企業向けの販売物流のシステム仕様に関するものだった。
そのプロジェクトリーダーの選出に、吉沢が立候補させられた。
どうせ指名されるなら自分から名乗り出たほうがね、印象もいいし、吉沢は手をあげた。
でも、面倒な事がおおいから…。
きっと部長もここで吉沢に何か成果をって考えていたんだろうね。
「ああ、目がな…、完全に訴えていたよな…」
「絶対フォローする。半分僕が責任を持つつもりでやるよ…」
「オオ、小杉だけが頼りだよ…、悪いな…」
「いつも助けられてるよ、僕のほうがさ…」
ハハ…と軽く笑ってから、吉沢は言った。
「そうだな、確かにな…」
本当にそうだ…。
「きっと今度から吉沢がツキまくるよ…」
そうなればいいな。
「そうなりゃいいな~。よし! なんかやる気でてきたぜ」
「そうだ、打ち合わせをかねて、今日飲もうよ、ね」
「おうおう、そうだ、打ち合わせだ!」
「でも、下資料だけ作っておくよ、僕が…」
「係長、わるいな…」
「係長はやめてよ、補佐だしお願いだよ…」
僕は本気で言った。
「分かってるって。それにいつまでたっても俺たちはワリカンよ…」
ありがとう、吉沢。
いいお酒だった。
プロジェクトの打ち合わせはほんの少しで、あとは普通の飲みだった。
新入社員のころと変わらないのがいい、本当にいい。おいしいお酒だね。
会計はしっかりワリカンにした。
お互いの給料はわかりきっているし、気兼ねがない。
「なあ、小杉よ…。俺たち二人のときは、小杉でいいかもしれないけれどよ…。部署内じゃまずくねえか…」
「小杉でいいよ…。同期だよ…。ある会社じゃ、役職は言わずにさん付けで、それこそ社長だって○○さんって呼ぶらしいよ」
そうゆう会社もあるらしいし、どうせいつかは吉沢に抜かれるさ…。
今はツイているだけだもんな、僕は。
僕らは駅の構内をゆっくりと歩いていた。
*
そうそう、この辺だった。
今日も酔っ払いがホームを歩いているよ、あぶないな。
「今日もホームから落ちそうな酔っ払いがいるね」
「うん…?」
「今度助けるときは、手加減してくれよ…。またほこりだらけになっちゃうよ…」
吉沢が僕を見下ろした。首をひねる。
「なんかあったか…?」
「ほら、この前、ふわふわしたでかい酔っ払い二人で助けてさ…。吉沢があぶなさそうなその酔っ払い引っ張って助けたら、ほら、そいつ僕の上に乗っかっちゃってさ…」
怪訝な表情の吉沢。
「ほこりだらけになってね、おしりのほこり、吉沢がはらってくれたじゃないか…。この前宝くじ買ったときにも、少し話したよね…」
首をひねり続ける吉沢。
「そうだったかな…。そんなことあったか…」
少し怖くなった。
ちょっと前、話したばかりなのに。
「う~ん…、思いだせないな…」
酔いが覚めた。
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