第13話 幸運の小杉さん

 帰宅時間、黙って吉沢と駅の構内を歩く。周りのほとんどの人達も家に帰るのだろう、疲れていたり、でも仕事が終わってすっきりした顔をしていたりね。

 吉沢が多少疲れた顔をして僕を見た。


「よお、まだツキはあるのか?」

 ん…?

「香港出張前にツキすぎてるんだって言ってたよな…」

「うん…」

「買ってみっか…?」

 吉沢があごで指したのは宝くじ売場だった。


「買おう…」

 面白いね、買ってみよう。

二人でバラで5枚ずつ買う。

でもな~、なんか嫌な予感…。

ツキを確かめるのにはいい方法だけれども、でもな…、嫌な予感がするよ。


「当たったら二人で山分けだぞ」

「もちろん!」


 きっと、あ~あ、もし当たるとすれば、僕のだろう。そして、分けるのだろうな…。当たるのは絶対僕のだ。


「番号控えておく?」

「バカ、信じているよ…、小杉も俺の番号控えるか…、しないだろう…」

「うん…」

「ツイていることを悩むなんて、贅沢だぜ…」

 この前に愚痴、覚えていてくれたんだな…。

「そのツキ、分けてもらえそうだな…、これで」

「そうだね」

 僕は少し嬉しくなった、いい考えだね。


「いいじゃんか…、ほら、この前までツイてないって言ってたよな…」

 吉沢はまたあごで電車のホームの端を指した。


「あそこでよ、変な若い酔っ払い二人で助けたとき、お前だけほこりにまみれてな…」


「うん…」

 覚えているんだね、吉沢。

「普段の行いの報いだと思いな…。幸運の小杉さんよ…」

 口で言うほど、僕は普段いいことをしてないけれどね。


「うん、そう思うよ、ありがとう…」

 吉沢はいいやつだ。

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