晩夏の頃
詩川貴彦
第1話 夏休み
「夏休み」
暑い夏だった
僕は高校生になった
ウソみたいに自由になった
少し大人になった気がしたから
どこかに行きたかった
どこでもいいから旅に出たかった
図書館で過ごすのが精いっぱいだった
涼しい場所は他になかったから
七月の午前中は補習で学校に行った
午後から自転車で海水浴に行った
夕方から夜までは勉強した
深夜ラジオが楽しみだったから
初めてサングラスを買った
サンオイルが流行した
ときどき映画に行った
大きな映画館が何軒もあったから
八月になると学校という束縛が消えた
一人旅の計画をたてた
夜行列車がたくさん走っていた
真夜中に遠くを走る音が聞こえていたから
盆祭りがあった
夜風が少し肌寒いと思った
急速に夏がしぼんでいった
夏休みの終わりを感じたから
長い夏休みだと思っていた
いつまでも終わらないと思っていた
あれもこれもと計画はたくさんあった
それだけでワクワクして楽しかったから
夏休みが終わりに近づいた
何もやっていない
何もできていない
計画は何も実行できなかったから
それが現実というものだと知った
九月のことを考えると嫌だった
でももう学校に行ってもいいかなと思っていた
夏に飽きていたから
もう夏はいいやと思っていたから
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