【短編】冬に再会した君は、春ですか?夏ですか?
【短編】冬に再会した君は、春ですか?夏ですか?
作者 海翔
https://kakuyomu.jp/works/16816700427148776322
高校二年の伊佐木伊織は冬休みに帰省した幼馴染の内田千春と再会するも、彼女の妹千夏が姉を演じていた。千春は半年前に事故でなくなったと聞かされ、千春が好きだった伊織が戸惑う中、千夏から告白されるも受け入れられない。好きになってもらうからと涙を流して笑う千夏の姿に、千春の面影はもうみえなかった。
不思議なタイトルがついている。春や夏は名前なのか、季節なのかしらん。読んでみなければわからない。
サブタイトルに、「本編『夏は春を演じる』」とある。夏は春を演じて冬に再会したということかもしれない。
ダッシュや三点リーダについては目をつむる。
一部、文章がおかしなところが見られる。書き終わったら一度音読して、気になるところやおかしなところがないか確認すると良くなる。
タイトルが問いに、サブタイトルが答えになっている。
初見では意味はわからないが、読者に内容をわかりやすく伝えてくれている。ミステリーの犯人探しのように、誰かが演じていることを見抜く作品ではなく、いつ、どこで、主人公は気づいたのかを読み取ってほしいのかもしれない。けど、そういった謎解きは二の次で、本筋は男女の機微を楽しんでもらいたいにちがいない。
高校二年の伊左木伊織視点で書かれた三人称の文体。主人公である伊織がみえている状況が淡々と描かれており、短編として意識して書かれている。読みやすい。
やや重めのラストを迎えるためか、全体的に軽い表現が使われていて、バランスが取れている。
前半。
隣町の高校に進学した幼馴染の内田千春が、冬休みの間だけ帰省してくると母からきいた翌日、伊佐木伊織は駅前に彼女を迎えに行く。
二年ぶりの再会。若干身長が伸びているが、顔つきや雰囲気は全く変わっておらず、「髪型も、相変わらず腰くらいまで伸ばしたセミロングだ」とある。
ロングとは胸の下くらいまである長さのこと。
ミディアムヘアは、肩から鎖骨くらいまでの髪の毛の長さ。セミロングは、鎖骨から胸にかからないくらいの長さ。ミディアムとセミロングの長さの基準は、鎖骨より短いか長いかである。
腰まであるなら、十分ロングヘアである。
「エスカレーターを降りてきているひとの中に、キャリーバックを持った千春らしき女の子を見付けた」という表現がいい。
伊織の目には「千春らしき人」と見え、曖昧な表現がされている。
自分の知っている千春と、見つけた女性が同一人物なのか、類似点を探しているのだ。
隣町の高校に進学するのはよくあると思うのだけれども、帰省するということは、家を出ているということ。寮生活のできる教育に力を入れている高校に進学したということだろう。それだけ彼女は勉強が良くできた、あるいはレベルの高い大学進学を目指していたのだろう。
「昔と変わっていなくて安心すると同時に疑問を抱いた。が、その疑問に対して、あまり深くは考えないことにした」とある。
大人になってからならともかく、二年も会っていないのに、昔と変わっていないなんてことがあるだろうか。とくに女子はファッションに敏感で、メイクもコスメもする。夏休み前と後ではまるで別人、なんてこともありえる。しかも二年の歳月が過ぎて、中学生だった相手が高校二年生になって再会すれば、「顔つきや雰囲気は全く変わっておらず」なんてことはありえない。
主人公は、おかしいと勘付きながらも、深く考えないようにしたのはなぜかしらん。相手の真意を確かめようと思ったのかもしれない。
故に、このときにすでに別人だと気づいていたのだ。
駅前を二人で周る。広場に大きなクリスマスツリーが設置され、電飾が施されている。
イルミネーションの点灯時間は、催されている場所によって異なっている。午前十一時から点灯しているところもあれば、午後三時や日没に合わせて点灯をはじめるところもある。
はたして二人はいつ駅前で出会ったのだろう。
彼女はこのあとクレープ屋でクレープを食べ、お腹が空いたとカフェで特製ロコモコを食べる。主人公もデミオムライスをたべている。
彼らの行動から、午前中に駅前で再会してめぐりながらクレープを食べ、また歩いてお腹が空いたからお昼を食べようと店を探して入店したら、昼時を過ぎていたのだ。
なので、午前十時過ぎに再会し、駅前を歩いてクレープ屋で購入して食べたのが十一時ごろと仮定し、またしばらく歩いて時間を潰しながらお腹が空いたからと店を決め、そこに向かってゆっくりめぐりながら歩いて午後一時過ぎに入店した。
三時間くらい駅前をぐるぐるしていたということかしらん。
はしゃぐ千春の後をついていく伊織。
クレープ屋を見つけて「正直食べたい。けど、今はダイエット中だから」という彼女に伊織は「千春がそう言って我慢したところを僕は見たことがない」と声をかける。
千春は『フレッシュイチゴレアチーズケーキクレープ』を購入して食べる。
ディッパーダンのクレープかもしれない。ディッパーダンで使われているイチゴは一年中生イチゴが使われている。生地は甘くももちもちな食感。
具材人気ランキングで一位となるイチゴと、なめらかな食感としっかりとした甘さが口の中に広がるレアチーズケーキのクレープを食べた時間は、まさに至福のひとときだっただろう。
そのあと駅前近くにある、みゆき通りを半分くらい進んだところで、千春はお腹を押さえながら「ねえ、伊織。お腹空かない?」と駅前を見渡し、白色の外装が特徴の真新しい見るからにおしゃれなカフェを指差す。
クレープを食べて三十分くらい歩いたのかもしれない。
「女の子にとっては、デザートは別腹なんだよ? それに私、お昼食べてないし」といっている。
この言い方だと、伊織は昼食を食べているように聞こえる。彼が食べたかどうか彼女が知らないだけ、とも取れるので断定できない。でもクレープ屋のときでも彼は食べなかったので、その時お腹は空いていなかったと思われる。
カフェに入った後、伊織はオムライスを食べるので、お腹が空いていたのかもしれない。
もともとランチデートのような感覚だったのだろう。ひょっとすると彼の当初の予定では、どこかのカフェやファミレスでランチを食べるつもりが、彼女がクレープを食べたので、少しお腹を空かせるために気をつかって歩き回ったのかもしれない。
入店すると「伊織がおごってくれるんだよね?」「お願いします! 伊織様!」と両手を合わせて拝む。片目を開けて様子をうかがう仕草をする彼女に「久しぶりだからな。おごってやるよ」という。
特製ロコモコと、とろ~りデミオムライスにドリンクバーを付けて注文。
互いに付き合っている人がいないことを確認し、千春はオレンジジュース、伊織にはコーラーを注いでもってくる。
伊織の学校の様子を尋ねる千春。友達がひとりいると答えると、転校してあげようかと千春。一人いれば十分、と答えたところで注文した料理が届く。
「それから伊織と千春は黙々と食べ進め、ふたりは、ほぼ同タイミングで食べ終わった」とある。
彼女は伊織に尋ねるばかりで、自分の話をしないのはなぜかしらん。伊織も彼女に学校のことを尋ねようともしない。二年ぶりの再会ならいろいろ聞くこともあるだろうに。
後半。
一緒に料理を食べ終えて、時刻は十五時半過ぎ。
イルミネーションがきれいに見れる時間までいようと駅前近くのショッピングモールに足を運んだ。アパレルショップや雑貨店、本屋などをぶらぶらと見てまわる。途中、千春は雑貨店でキャンドルを購入した。
時刻は十六時半。広場へと戻ってきた伊織と千春は。イルミネーションが、見慣れた駅前の風景を彩っていた。クリスマスツリーを眺め、「そろそろ帰る?」と千春が尋ねたとき、伊織は気になることがあるんだと口を開けた。
「やっぱりお前――千夏……、だよな?」
千春には二つ年下の妹、千夏がいる。小さい頃はどちらがわからなくなるほど似ていた。隣町に進学した後、自宅マンションで千夏を見たとき、千春が帰ってきたと見間違うほどだった。
姉は妹を思い、妹は姉を慕い、二人は仲が良かった。
はじめは千春だと思ったが、あまりにも昔のままだったから、途中から千夏ではないかと思うようになったのだ。
カフェでいっしょに食事をしていたとき、伊織が黙々と食べていたのは彼女がいつ打ち明けてくるのか、待っていたのかもしれない。なかなか打ち明けてくれなかったので、彼から口にしたのだ。
自宅マンション前についてから、姉を演じていた妹から、半年前に事故に遭って姉は死んだことが告げられる。秘密にしていたのは、伊織が姉のことを好きだったから、悲しませたくなくて、姉のふりをしたという。
小夏は伊織に隠していたかもしれないけれども、同じマンションに住んでいて、幼馴染の彼女が事故でなくなったことを親が知らないということがあるかしらん。
同級生なら親同士の交流があっただろうし、半年も経てば、同じマンション内なら人づてでも耳にすると思われる。
伊織に千春が帰省すると伝えた母親は、その時点ですでに千春が亡くなっていたことを知っていたと推測する。ひょっとすると、姉が亡くなってから千夏が伊織の母親に伝えた際、自分の口から伊織に伝えるからそれまでは伏せておいてほしいと頼んであったかもしれない。
そう考えると、今回の帰省の一件に伊織の母親も関わっていた、と考えるのは自然な気がする。すべては、伊織のためを思っての行動だったのだ。
「でもやっぱり辛いね」「どれだけお兄ちゃんがお姉ちゃんが好きなのか、あらためて思い知らされちゃった」「わたしじゃ、だめかな?」と尋ねる千夏に「……ごめん」と答える伊織。
亡くなっても千春が好きだとこたえるも、「お姉ちゃんのこと、わたしが諦めさせてあげる」と千夏は伊織と唇をかさねる。「わたしのことを好きになってもらうから。お兄ちゃん、覚悟しといてね?」可愛らしい笑顔を見せながら涙を流している。
そんな千夏の姿からは、千春の面影はみえなかった。
伊織は千春が死んだという事実を受け入れ、なおかつ、千春によく似た妹の千夏ではなく、千夏を一人の女声として見たから、千春の面影がみえなかったのだろう。
また、千夏は姉の演じるのをやめ、千夏自身として伊織に自分をみせたから、面影がみえなくなったのだ。おそらく彼女はこれまで、どこかで姉の死を引きずり、重荷となっていたのではないだろうか。
ようやく伊織に打ち明けることができて、姉を知る伊織に、姉を亡くした妹として泣けたのかもしれない。
もちろん、告白して「ごめん」と振られたあとなのだ。悲しくて泣きたくもある。相手は死んだ姉。亡くなった人は美化されるため、心の中から消えることはないかもしれない。それが一生続くのだ。
せめてもの救いは、伊織が片思いだったという点かもしれない。
新たな恋に踏み出せる可能性がある。
この先、二人の道に幸多くあらんことを願うばかりである。
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