黄色い水仙

黄色い水仙

作者 ハレルヤ

https://kakuyomu.jp/works/16816700426954698858


 異性と話すのが苦手な藤原千遥が落としたハンカチを高原遼太が拾ったことをきっかけに友達になり、付き合うも彼は事故で亡くなる。彼女に届けられたハンカチとともに彼も異性と話すのが苦手だったと伝えられたことを契機に前向きに生きていこうと成長する物語。



 そのものズバリなタイトルがつけられている。

 黄色い水仙の花言葉には、「もう一度愛してほしい」「私のもとへ帰って」という意味がある。切ない失恋の気持ちや、大切な人を失ったことを連想させる。切ない話なのかどうかは読んでみなければわからない。


 文章の書き方については目をつむる。


 いわゆる恋愛ものである。二人が出会い、深めあい、不安やトラブルが起きて、ライバルが現れ、別れがあって結末を迎える。結末は死別と成長。主人公は、自ら進んで選んだのではない環境となんとか折り合いをつけながら自分を磨き、自分の意志を貫いて成長し、自立していく。

 主人公は高校三年生の藤原千遥、一人称「私」で書かれ、「告白」の回は高原遼太の一人称「僕・俺」で書かれた文体となっている。自分語りな実況中継な表現がみられる。会話文や内面を重視し、場面描写は具体性が極力少ない。内容がやや重いため、軽めの表現にして読みやすくバランスがとられている。


 前半。

 高校三年生の始業式当日、向こうから告白されたにも関わらず四日で別れ落ち込んでいた千遥は、住宅地内のバス停前で友人の鈴森花菜に励まされるも、大切にしていたハンカチをなくしてしまう。


 つきあって四日で別れたということは、春休みに告白されたのだろう。同じ学校の生徒だろうか。

 彼女のハンカチは大切なものらしい。だけど、なくしたあと、探している様子も見受けられない。このバス停でハンカチを落とし、遼太が拾ったということは、利用しているバス停が同じなのだろう。

 だとすると、大声あげて花菜と話している主人公の姿を見られていると思われる。この日だけでなく、高校一年生のころから花菜とよく話している姿を、遼太は何度も目撃してきた可能性も考えられる。

 女子同士、仲良く話しているなぁと見ていたかもしれない。

 ひょっとすると、花菜は彼がバス停を利用しているのをすでに知っていた可能性がある。なぜなら、のちに彼に告白しているからだ。


 ある日、クラスの高原遼太から「友だちになってくれませんか」と声をかけられる。驚きつつ「はい」と返事をしてしまう。

 翌日の放課後、席替えが行われ、千遥は高原遼太の隣となる。このとき初めて彼の整っている顔を見て、モテるのだろうなと思うのだった。

 一カ月が過ぎた。彼に話しかけられる度に驚いてしまい、返事することが出来ず、次第に会話がなくなってしまった。

 二度目の席替えが行われ、再び彼の隣となった。彼は目をそらしてしまう。

 それでも彼は話しかけてくれたが、人と話すことに臆病になってしまった主人公は満足に話をすることが出来なかった。


 異性と話をするのが苦手な場合、はじめに「異性と話すの苦手なんです。早く克服したいんだけど」と話してしまうのが一つの方法である。これができたら、苦労はないのだけれども。できないから、主人公たちは苦労するのだ。


 友人の鈴森花菜に相談すると、一緒に話をするために彼女が協力して付き添ってくれることとなった。放課後、待ち合わせの場所で彼は、男子と話すのが苦手な千遥をしって、一緒に話せるようになろうと、また友達になるのだった。

 あれから二週間が経過した六月。三年生になって二カ月経つのにクラスメイトとは馴染めずにいた。そんな彼女は高原遼太から今後の土曜日に水族館へ行こうと声をかけられる。約束の日、時計台の前で待ち合わせた二人は水族館ヘ行き、楽しい時間を過ごす。小遥は、どうして彼がかまってくれるのか気になって尋ねてみた。

 彼は「色んなところが」似ていると答え、「いつか分かると思うよ」と言い残してそのまま二人は別れた。


 主人公が彼のことを気になりだしていく。「昔男子にからかわれたりしてて、それでトラウマに」なった過去をもっている主人公は、異性と話すのが苦手となっていた。だけれども、今回のデートをきっかけに少しずつ自ら殻を破ろうとしている。


 後半。

 花菜に水族館での出来事を話すと、親密になるチャンスを逃したのはもったいない、と言われてしまう。千遥は、クラスの女子から嫌がらせを受けていて、彼と距離を置こうと考えていた。それをしって諌める花菜。「ここで話さなくなったら、二度と変わる事が出来ないよ」といわれ、頑張ることを決意。明日の文化祭でひょっとしたら何かあるかもよ、といわれる。


 主人公が意志決定するところで次のシーンへ入っていく。

 次からは積極的にドラマが展開されていく。


 文化祭当日、数人の女子からの悪口を囁かれる中、彼と同じシフトになった千遥は一緒に文化祭を回ってほしいとお願いする。快く承諾してくれた彼と文化祭を回っていると、「千遥が男の子と文化祭回ってる‼」と花菜が大声を上げて驚く。

 その後は三人で文化祭を見て回った。

 文化祭が終わり、待ち合わせの場所へ向かうと花菜と高原君の姿があり、花菜が彼に告白していた。裏切られたショックに涙が溢れていると、彼から「僕の話を聞いてほしい」といわれる。

「知りたくない、二人の関係も何もかも。これ以上惨めな気持ちになりたくないの」「花菜だけは信じてたのに目の前で裏切られたし、高原君だってどうせ……」と嘆く小遥に彼は「断ったんだ!」「藤原さんの事が好きだ」と告白し、何でもすると口にする。

 それを聞いた小遥は「私と、付き合って欲しい」と思いを告げると、彼は笑顔で「よろしく」と答えたのだ。


 主人公に対して協力的な花菜は、実は友達の彼を取る女だった。定番かもしれないが、こういうキャラがいるとお話が面白くなる。

 友達の彼氏を取る女の特徴は「恋愛至上主義」であり、「 友情は使い捨て」「恋愛も長続きしない」「いつも注目されたい」「他人を使って確認する」傾向が見られる。

 花菜は冒頭、主人公が四日で別れた話を聞いて「ドンマイ」「前の事なんか忘れてさ、また新しい彼氏くらいすぐ出来るよ」「出会いは沢山あるでしょ」「華のJKブランドもあと1年しか無いんだし、今日から切り替えて行こうよ」「クラス替えで出会い、あるかもよ」と、主人公を励ましている。

 とにかく恋愛に価値を置いているのが会話から見受けられる。

 また、花菜には彼氏がいないらしいが、主人公の知らないところで誰かと付き合っては別れてを繰り返しいるだけで、長く付き合っている「彼氏がいない」だけかもしれない。

 一カ月経ってからも、主人公と遼太の水族館デートについて話を聞いているのは、主人公を通じて彼のことを探っていたのだろう。なにより、人のものはいいものに思えるので、友達の仲のいい子というブランドを欲しがってのかもしれない。

 

 クラスの子達とあまり話すこともなく半年が過ぎ、二学期の終業式を迎えた。あれ以来、花菜とは口を利いていなかった。

 二十四日にイルミネーションを見にクリスマスデートをし、プレゼントを渡そうとするも渡せず見送る遼太。一人反省会をしている彼の元へ、信号無視をしてトラックが突っ込んできた。


 素朴な疑問として、彼女彼は高校三年生なので受験勉強はどうされているのかしらん。


 彼が死んで一カ月が過ぎた。学校では話す人もなく、自殺しようとしたが彼に止められている気がしてできなかった。そんなとき、彼の母親が家に訪ねてきて、以前バス停で落とした小遥のハンカチを届けに来た。実は彼が拾っていて、返せず亡くなってしまったのだ。彼もおなじく、異性と話をするのが苦手な子だった。クリスマスのときハンカチを返そうと持って出かけたことを聞いたとき、イルミネーションをみ終わったときなにか渡そうとしていたのを思い出す。

 彼も同じ苦労を抱えていたことを知らず、彼の気持ちを理解すら出来なかった。

 彼の母親に「遼太は泣いているあなたを見たくないと思います」「これからは前を向いて、生きていって欲しい」と告げられ、後悔しないよう生きることを約束するのだった。


 お子さんを亡くされてお辛いだろうに、息子が付き合っていた彼女の家に出向いて励ましに来るとは、なんと立派な母親なのだろう。

 主人公には大切なハンカチだったらしいけれども、どんな思い入れがあるのかしらん。

 お気に入りではなく、大切で大事なハンカチだった。大切にするにはそれなりの理由が必要になってくる。誰かから、何かの記念日で頂いたのだろうか。主人公の父親が出てこないので、亡くなった父親からのプレゼントだったと邪推してみる。


 翌日、花菜と半年ぶりに話をして仲直りすると、クラスメイトたちとも声をかけて話をするようになっていく。


 花菜は、「私こそごめん。千遥の気持ち知ってたのに。裏切るようなことしちゃって」といっている。やはり確信犯である。

 そんな彼女に対して主人公は、「私いつも自分の事しか花菜に話してなくて、だからあんな事になったんじゃないかなって。だから、その、これからは、もっと花菜の話も聞きたいなって」「私と、友達になってください!」

と、花菜にお願いするのだ。

 異性に対して話すのが苦手だったのだから、同性の彼女に話すのは容易にはちがいない。とはいえ、自分を裏切った相手と仲直りするというのはなかなか大変だ。遼太の死を受け止めて前に進むことが出来たから、仲直りの行動ができたのだろう。


 卒業式を迎え、小遥は死んだ遼太と話をし、彼のおかげで昔の自分から卒業できたとお礼を述べ、彼からも「千遥のおかげで過去の自分を卒業出来た」「幸せになってね」と言い残して消えた。

 卒業証書の授与の順番がきて、名前を呼ばれた千遥は笑顔で「はい」と返事をするのだった。


 面白い話には、どっきり、びっくり、裏切りの三つの「り」があるという。友達の裏切りにあった主人公は、好きだった人とデートをした帰り亡くなってどきっとするのに、幽霊として現れるのには驚きだ。

 読者を意識して書かれたのだろう。


 読後にタイトルを見て、ハンカチの刺繍からつけられたのだと納得した。

 ハンカチに黄色い水仙の刺繍が施されていることが明かされる。タイトルから、おそらくそうなのではないかしらんと想像していたけれども、冒頭でほのめかしてくれていても良かった気もする。

 死んだ遼太が「ハンカチの黄色い水仙の刺繍さ、本当に藤原さんにピッタリだよね」といっている。

 水仙の花名の由来は、属名の学名「ナルシサス」は、水鏡に映った自分の姿に恋をしてスイセンになってしまったギリシア神話に登場する美少年ナルキッソスの伝説に由来する。そこから水仙全般の花言葉は「うぬぼれ」「自己愛」だし、黄色い水仙の花言葉は、「もう一度愛してほしい」「私のもとへ帰って」だ。

 彼はどういう意図で、主人公にピッタリだと言ったのだろう。

 邪推を巡らせて、大切にしてきたハンカチはおそらく、亡くなった父親から贈られた誕生日プレゼントだったと仮定する。黄色い水仙の誕生花は、一月二日と四日、四月三日である。このいずれかが主人公の誕生日なのだろう。

 冒頭、四日で別れたとはいえ主人公は男子と付き合っている。

 始業式が四月七日とすると、告白されたのは四月三日。その日は誕生日だったから舞い上がって付き合うことになったのかもしれない。

 そんな経緯から、遼太は誕生花だから、主人公にはぴったりだと行ったのかもしれないと想像してみる。きっと、彼は主人公の誕生日もしっていたのだろう。

 ――と、あれこれ邪推してみたが、黄水仙の花言葉には「気高さ」「感じやすい心」もある。彼がいったのはおそらく、こちらだろう。

 成長した主人公の姿をみて、彼はピッタリだと伝えたのだ。

 きっと彼女はこれからも、強く生きて行くだろう。


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