ドラゴン倒してお姫様と結婚する話

ジェロニモ

ゴーレムと飲んだくれの鍛治師



『ガルド王国第三王女であるメル王女殿下がテュルス帝国へと向かう道中、ドラゴンの手によって連れ去られた。見事ドラゴンを打倒し、メル王女殿下を救い出してくれる勇士には報奨として金貨千枚を与え、メル王女殿下の婿として王族に迎え入れることを約束しよう』


 と、俺が見ている張り紙にはそのようなことが書かれているらしい


「ありがとう」と、字が読めない俺の代わりに張り紙の内容を読んでくれた小汚いガキに銅貨三枚を渡すと、ガキは出店の方へと走っていった。


 俺の名はアーデル。ど田舎の貧しい農家の三男だ。今年で十八歳になるが、どれだけ働いても良くならない生活に嫌気がさした俺は、都会で一旗あげて、家族に良い暮らしをさせるためついさっき王都へとやってきた。


 金貨千枚。それは俺ら農民が一生かけても稼ぐことのできない大金だ。よく村に来るぼったくり商人だってそんな大金を手に入ることなんてできないに違いない。


 よし、ドラゴンを倒そう。そして、金貨千枚で家を買って、家族で一生ぐーたら暮らそう。


 俺は家族が護身用にと持たせてくれたクワを握りしめ、そう決意した。



 まず俺はドラゴンについて酒場で聞き込みをすることにした。


 すると、竜の根城への近道である鉱山を通るルートは、現在ゴーレムが道を塞いでいて使えないから、とてつもなく遠回りをする必要がある。ということを飲んだくれていた鍛冶師のおっさんが教えてくれた。


「ならゴーレムを倒せばいいじゃないか」と俺が言うと、鍛冶師のおっさんは「王国の騎士団が総掛かりでも倒せなかったんだ!倒せるもんなら倒してみな!」と酒臭い息を撒き散らした。


 言われた通りゴーレムを倒して、ゴーレムのことを教えてくれたおっさんの鍛冶屋へと「ゴーレム倒したぞ」と報告をする。ホラ吹きだと信じてくれなかったが、ゴーレムだったものが自壊した鉱石を見せると、親父さんは目の色を変えて驚いた。


 ゴーレムは硬かったが、額の、なにやら文字が書いてある部分を削ったらなぜか自壊した。寿命ってやつかもしれない。


 バラバラになったゴーレムの残骸はなにやらピカピカ光ってたので高く売れるかもと鍛冶屋のおっさんに見てもらったが、なんでも熱を通さない金属らしいことがわかった。


 噂に聞くドラゴンは火を吹くらしいので、「その鉱石でドラゴンのブレスを防げる防具を作ってくれ」と頼むとあっさりとOKされて、盾を作ってくれることになった。


 てっきり加工が難しい素材だと勝手に思っていただけに、「あんな硬かったのに加工なんてできるのか?」と尋ねると、


「ああ?ゴーレムは機能が停止して魔力が通わなくなると一気にもろくなるんだよ。だから加工は簡単だ。削って盾の形もすりゃあいいだけだからな。間違っても熱を防ぐ以外の用途でこの盾使うんじゃねえぞ?こんなもの使うくらいなら鍋でも構えたほうがまだマシだからな。熱以外には紙切れだと思え」


 とおっさんは教えてくれた。


 その脆さのせいで、用途が著しく限られるため貴重だがあんまり高くないらしい。とんだ期待はずれである。


「おめえ、ドラゴンを倒すんだろ。なら、並の武器じゃドラゴンの鱗にゃ歯が立たねえぞ」


 とおっさんが忠告してきたものの、「金がないから無理」と正直に伝えた。


「こっちはあのゴーレムが邪魔で鉱石がろくに掘れなくてな。商売あがったりだったんだよ。だからゴーレムを倒してくれたお礼にただで作ってやる。で、なんにする」


 こういうのは使い慣れたものの方がいいだろう。


 ゴーレムを倒したという武器としての実績もあるので、「じゃあクワで」と伝える。


「いいぜ。クワでドラゴンを倒すなんて、おもしれえじゃねえか!」


 と、おっさんはガハハハと大笑いした。


 先ほどおっさんの話を聞いてふと疑問に思い、「鉱石を他国から買い付けたりはできなかったのか」と聞いてみた。


「この王国は隣国に喧嘩を売りまくっててな。別の国から物を輸入することもできやしねえ。ふざけた話だぜ」


 おっさんはそう言って「ケッ」とツバを吐き捨てた。


「国のやつらは騎士のための剣やら鎧やら、戦のための武具ばかり作らせやがる。どうせまたどっかの国に攻め入ろうって考えてるだろうよ。他国から奪うより、まず内から豊かにしようとは考えられねえのかねえ。王族のクソ野郎どもめ」


「王族に対してそんなことを言って大丈夫なのか」と尋ねると、おっさんは「クソ野郎はクソ野郎だ!」と吠えた。


 王国に対して俺はなんの思い入れもない。むしろ重税で憎しみすらあるので、「そうなのか」と相槌をうつ。


 俺は「自分はそのクソ野郎の第三王女様を救いにいくんだが、それを手助けするような武器を作るのはいいのか」とおっさんに聞く。


「……メル王女殿下は平民の妾との間にできた子でな。よく城を抜け出しては城下町で遊んでたよ。俺も話したことがあるが、王族とは思えない思いやりのある優しい子だったよ。だから、絶対助けな」


「それにクワは武器じゃねえしな!」と、おっさんはバシンと力いっぱい俺の背中を叩く。


「おいおい、こんなおっさんに叩かれて悶えてるようじゃドラゴンなんぞ倒せねえぞ!」


 おっさんはまたガハハと笑った。


「クワは三日後には必ず仕上げてやる。だから三日後のちょうど今くらいに来な」と言われた。


 言われた通り3日後、そこにはなんだか吸い込まれるような輝きを放つ純白のクワがあった。


「ミスリルってやつだ。こいつは先祖代々家宝になってたもんでな。ギリギリクワが作れるくらいの分量があって助かったぜ。これならドラゴンにも通用するだろうよ」


 と、おっさんは軽い口調で言うが、俺だって知ってるぐらいミスリルは希少な金属だ。間違っても、タダでもらっていいような代物ではない。「こんな高価なものをタダで受け取るわけにはいかない。ゴーレムを倒しただけじゃ対価につり合ってない」と告げる。


「対価は釣り合ってるよ。ていっても、わかんねえのも無理はねえ。俺にはな、ルーキーの頃からうちの装備を使ってる、昔馴染みの冒険者がいてな」


「今にして思えば、親友ってやつだったんだろうな」と、おっさんはそう話し始めた。


「俺はゴーレムのせいで鉱石の流通が滞った時、鍛冶屋はもう引退しようと思ってたんだ。そしたらその冒険者が、鉱石なら俺が採ってきてやるよ!なんたって俺は日々魔物と戦う冒険者様だからな、楽勝だぜ!って、そう言って鉱山に潜ったっきり、結局帰ってこなかった」


「騎士団だって敵わなかった化け物だってのに、バカなやつだよ」と、おっさんは寂しそうに笑った。


「おまえは親友の仇をとってくれた。だからこれはそのお礼さ。ミスリル製のクワなんぞ誰も使わねえからな。おまえが使わなかったら倉庫に放り込むだけだぜ?」


 おっさんは、すべてをわかった上でこのクワを作ったのだ。これ以上ごねるのは無粋というものだろう。俺は「ありがとう」と一言だけ言い、そのクワを受け取った。


「ドラゴン、無理そうだったらとっとと逃げろよ」


 おっさんはそう言って俺を見送ってくれた。

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