家族粉砕
佳子が自宅に戻り数時間が経過した。佳子は自分のスマホに一切手をつけることはなかった。いや、手をつけるのが怖かった。今までの友達や知り合いが自分から離れていくのが目に見えてしまうのが。
実際に彼女の逮捕は数時間で町中に知れ渡った。そして、彼女のSNSアカウントには逮捕の件についての書き込みや誹謗中傷があったり、フォロワーが急激に減少した。しかし、彼女は自分の犯した罪を自白したとしてもまだ犯罪者ではない。まだ、無実の推定が適用される被疑者である。
幸運にも彼女はこのSNSアカウントを今後、開くことはなかった。
ガチャ、、南家の大黒柱である南 和義が帰宅した。
彼は娘の逮捕を聞いた瞬間から娘の心配よりも自分の身を案じていた最低な父親である。彼は町の町内議員で町議会の議長を務めている。町民からの支持も厚く、来年の町長選挙に出馬しようと現在、着々と準備を勧めている。そんな中、突如として訪れた娘の佳子の逮捕。和義は犯罪者の父親の汚名を着せられることになるのかをずっと心配している。
「お父さん、佳子が帰ってきましたよ」
「そうか、良かったな」
警察沙汰を引き起こした娘に怒っているのか昨日から佳子の話など冷たい態度をとり続けている。
「ねぇ、あなた!自分のこともそうだけど佳子のことももう少し考えたらどうなの」
「あんなやつ、娘でもなんでもねぇ!」
父の声は自分の部屋に居た佳子にも届いていた。犯罪者 南 佳子は自分のベットの上で泣き崩れた。
和義は一人娘である佳子を全く溺愛していなかった。和義は娘を道具としか考えていなかった。和義がここまで町内で信頼を集められたのは佳子のおかげと言っても過言ではない。南 佳子という性格も容姿もオールパーフェクトな人間は父の野望のための餌として使われていた。
佳子はそんな自分の状況を把握しておきながら、それでも父に身を捧げた。彼女の服で隠れている身体の部分には大小様々な傷や痣が残っている。学校で忘れ物をしたりテストで90点以上取れなければそれが増えた。町中で挨拶や親切な行動をとらないときも同じだった。彼女は父に身を捧げたのではない、父に恐怖によって身までも支配されていたのだった。
警察署内にて、
「佐味、よくやった」
「ありがとうございます、山下課長」
捜査第一課は山下 哲男のデスク前に全員集合していた。
「よし、みんな聞いてくれ」
山下が横に用意されているホワイトボードにある男の写真を貼った。
「こいつはうちらが懸命に追っている暴力団組員連続殺人事件の犯人である」
一課の刑事たちの視線が写真に一瞬で向けられる。そんなピリついたこの状況に堂々と入ってくる男がいた。
「えー、こいつは、、?、誰だ、勝手に入ってくるのは」
「ごめんなさい、佐味さんに少し用がありまして、、」
その男を佐味は一度見て無視をした。そして、男は佐味の態度を察したのか所属先の捜査第三課へと戻っていった。山下は少し咳払いをして、貼った写真を指さして言った。
「こいつは河村 勇輝 19歳、隣の市内を拠点とする詐欺グループの頭であり、栄生組の幹部である」
「19歳で暴力団幹部かぁ」
一部から少し恐怖の混じった弱音が聞こえる。彼は喧嘩の強さだけでそこまで上り詰めた。その喧嘩の強さで栄生組の敵対暴力団である花義組の関係者を4人も殴り殺した容疑がかかっているぐらいだ。刑事が恐れるのも理解できる。
「こいつの逮捕状もすでに取れている」
「山下課長、河村 勇輝が犯人で間違いはないんですね、誤認逮捕とか本当に嫌ですから」
刑事歴約40年になるベテランの有馬 幸太郎が不安げに言った。彼は暴力団の抗争に関しての事件にかなり多く関わってきた。その中に誤認逮捕や証拠不十分で起訴できなかった暴力団組員が数多くいた。その彼らがその後事件を起こす度、有馬は被害者宅に赴き、謝罪を何度もしていた。そして、涙を流していた。
「有馬さん、今回は大丈夫だ、佐味がしっかり証拠を持ってきた」
「佐味さん、本当かい」
「はい、有馬さん、今回は大丈夫です」
「それでは、相手は強者だ、気をつけて行け」
「はい!」
そして、捜査第一課の刑事たちは警察署を飛び出して行った。
「佐味さん、今、よろしいですか」
他の一課の刑事たちとともに警察署を出ようとして三課の前を通ったとき、佐味は声をかけられた。
「さっきは駄目だったけど、今はいいわよ、那古くん」
「ありがとうございます、それで話があるんですけど」
そう言って、那古は自分のデスクから資料を取り出した。
「この間の南 佳子について少し気になる点があったんですけど」
「気になる点って」
「それが小学校2年のときの生活についてのアンケートに気になる内容があったんです」
佐味がその資料を覗き込む。
『お父さんの暴力が怖いです』
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