歳暮(宣長)
おどろきて惜しむ心のはかなさよ今日にはかなる年の暮れかは
世のわざに心騒がぬ隠れ家は年の暮れとていとなみもなし
ふりまさる老いのしるしかこぞよりも今年は惜しき年の暮れかな
いたづらに月よ花よと明け暮れて暮れ行く年のほどもはかなし
よそに聞く年のおはりのいとなみに人もとひ来ぬ宿のさびしさ
いたづらに雪をもめでし年の暮れこれぞ積もらば老いとなるべき
何くれと春のいそぎにまぎれては惜しむ間もなく年ぞ暮れゆく
ちりぢりに夕暮れ帰る市人のわかれをけふは年のわかれ路
暮れゆくを引きとどむべき綱もなし杣川ならぬ年のはやせは
いたづらに暮らせる年は積もれどもなほ数ならぬ身をいかにせむ
うつそみの世のいとなみにいとまいりてなすべき事もならぬうれたさ
なしてむと思ひし事はならずして月は来経行く年は来経行く
数ふればなしたることは少なきに月日のみ経て年も暮れけり
ふりゆくも惜しからぬ身を人まねに今年暮れぬと何歎くらむ
老いぬれど身はとまりゐて行く年を今年も惜しむことぞうれしき
行く年の別れはうれし老いの身の先立ちもせでとまる思へば
過ぎぬれば長き春日も秋の夜もみじかかりける年の暮れかな
ふる雪もあはれとぞ見る年の暮れ我が身も老いの積もると思へば
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