第三十話 勝者!

 航宙船小判丸のシャワー室で、少女三人は汗を流していた。

 背格好は平均的だけどプロポーションは恵まれて整っているコハクと、小柄だけどより起伏に恵まれたツバキと、身長があってスレンダースタイルのクーラ。

 セミショートの黒髪と、長くサラサラな黒髪と、ポニテを解いたら緩いウェーブのロングヘアな金髪。

 三者三様に魅力的な少女たちは、三人でほぼ満員なシャワー室で、お互いを知り合っている。

「…そうなのか。コハクは、この宇宙船の端末であり、メイドロイドであったのか」

「はい~。コハクは無事にアルト様の所有物となり、アルト様のお気の向かれるままに、宇宙を航行いたします~♡」

 主に仕えるのが悦びらしいメイドロイドというか女中少女は、頬を染めて恥ずかしそうだ。

「そしてツバキは、命の恩人であるアルトに仕えている、と」

「はい。剣の腕を磨き、義に生きるのが侍の生き様…。某はこの命、全てをアルトに捧げています」

 お尻を触られてしまうという、背後を取られた最大の失態が、その理由でもある。

「そうだったのか…」

 二人の素性などを納得したクーラに、ツバキが問う。

「それでクーラ、あなたはナゼ、アルトのお嫁さんに?」

 アルトに一目惚れをしたとか想像していたツバキとコハクは、予想とは違う解答を得た。

「我らプリクトン人は、最強生物としての自尊心を護りながら、しかし傲慢にならないよう、物心ついた年齢に『プリクトンの聖魂』へ向けて、それぞれに誓いを立てるのだ」

 クーラの言う「プリクトンの聖魂」とは、プリクトン星に存在している、聖地のような寺院だという。

 どんな状況になってもコレだけはしない。

 とか、コレをされたら負け。

 などを、その寺院で誓うのが、彼らの保育園の入園式なのだとか。

 その誓いは、自分の全てを懸けた一生ものだという。

「なるほど…」

 侍たるツバキには、よく解る精神性らしい。

「つまり、クーラ様はご自分の誓いに従って、アルト様のお嫁さんになる。という事なのですね」

「そ、そうだな…」

 女中少女の問いに、金髪美少女は恥ずかしそうに頷く。

 三人の艶めく肌を、石鹸の泡が流れ、湯に濡れて艶々に輝く。

「して、クーラの誓いとは、どのようなものなのですか?」

「う…」

 ツバキに問われ、つい口ごもったものの、素直に告白。

「わ、私はその…も、もし、私の胸を触った男がいたら、その…その男の、お嫁さんになろうと…」

「あら~」

「また珍妙な誓いですね」

 二人の「?」な反応に、クーラは慌てて補足説明をする。

「わっ、私の家系は代々っ、ツバキとは真逆なのだっ! それでっ、そのっ、そういう誓いをたてればっ、私だって…大きくなると…っ!」

 と、ツバキの爆乳を羨ましそうに見ながら、恥ずかしい告白をする、生真面目な金髪美少女だ。

「ああ…」

 納得をしたらしいツバキだけど、納得いかぬ顔もする。

「胸の大きさなんて、大した問題ではありません。某からすれば、クーラのその身長こそが勝ち組ですよ!」

 と、頭一つ分以上の身長差に、見上げて悔しがる侍少女だ。

「だいたい、そのようにスラりと綺麗な曲線を魅せ付けておいて、更に胸の大きさを望むなど贅沢千万! 神仏の罰が当たりますよ」

 言われたクーラも、持論を展開。

「いやいや、ツバキのその豊かなボディーラインこそ勝ち組だろう。私がドレほど、ギルドで小バカにされてきた事かっ! 露出狂な女の犯罪者にすら笑われたりするのだぞっ!」

 意見の対立するツバキとクーラへ、コハクが仲介に入る。

「まあまあ お二人とも、 お二人はアルト様に選ばれた女性なのですから、お互いの長所を認め合って、仲良くアルト様に尽くしましょう」

 召使としては正しい言葉だけど、二人の論点はそこではない。

「「ジロっ!」」

「はい?」

 ツバキとクーラは、平均身長と恵まれたバランスなコハクのボディーラインへと、嫉妬と羨望の眼差しを送った。


 ブリッジてはアルトが一人、キャプテン・シートへと腰かけて、これからのコースを考えている。

「とりあえず、太陽系からは 出た方が良さそうだよなぁ…」

『現太陽系の警察機関が影響力を強く及ぼしているのは、地球連邦の領海のみでございます。それは別の惑星連邦についても、同様でございます。アルト様が地球連邦の影響下から脱出をされたいのでしたら、現在の太陽系外の、更に地球連邦領内からも脱出をされるのが得策だと、演算されます』

 と、コハクの声で返答を貰う。

 宇宙船本体に対しての端末がコハクなので、端末と本体は繋がりながらも別々に思考をしたり解答したりと、それぞれに仕事をこなせるのだ。

「それとさ、さっき クーラとの対決の時にさ…」

 コハクは「アルトを逃がす為の手段はあるけど時間が掛かる」という旨の話をしていた。

「それってつまり、恒星系破壊兵器…とかの意味?」

『はい。コハクは基本的に、恒星系破壊兵器ですが、その使用設定にはそれなりに時間を要します。クーラ様との決闘の場に於いては、コハクの端末が時間を稼ぎ、アルト様を宇宙船へと回収し、惑星ごとクーラ様を破壊攻撃する。という戦法が、最も効果的と演算されました』

 と、兵器としては自慢げな感じで、物騒な事を言う宇宙船である。

「そ、そう…まぁとにかく、クーラが仲間になってくれて、助かったよ」

『それは賛同いたします。クーラ様の あの戦闘能力は、アルト様の護身において、ツバキ様とは違う用途で、強力無比でございますので』

 ツバキやクーラに様付けをしているのは、主であるアルトが仲間と認定したから。

 というか、二人とも実質、お嫁さんになったに等しいからだ。

 召使いである航宙船の認識では、ツバキもクーラもアルトの愛人であり、生命体としての繁殖本能を満たす異性の仲間入りは、大歓迎らしい。

 ちなみにコハクの端末体にも、男性の性欲求を受け入れる機能は備わっているという。

「お、お嫁さんって言われてもなぁ…」

 実感が全く無いし、そもそも生前、女の子にモテたどころか、碌に会話もしたことが無い少年である。

 おしとやかな美少女のコハクと、清楚で凛々しい美少女のツバキと、金髪スレンダーで天然な美少女のクーラ。

「…僕はこの幸運で運を使い果たして、また死ぬのだろうか…?」

 なんだか事故死してタイムリープして生きているのにまた死ぬとか、考えるとゾっとする。

「大丈夫でございます! アルト様のお命は、コハクたちがお守りいたします!」

 と、背後の扉が開かれて、コハクの声がした。

 振り返ると、シャワーを浴びた三人が、ブリッジへとやって来ている。

 湯上りの良い香りがブリッジいっぱいに広がって、思わずドキドキする少年だ。

「ま、まあ、三人それぞれで最強だから、その点は安心してるけどね」

 恒星破壊兵器と、頑強な最強生命体と、接近戦無双の抜刀侍。

 アルトに不安があるならば、まさに運を使い果たしての不運死くらいだ。

「コホん…ところで アルト」

 クーラが何やら、言いづらそうに問いかけてきた。

「ん?」

「その、だな…えっと…」

 モジモジするクーラから視線を寄越されたツバキも、何やら言いづらそう。

「そ、某に振るのか! その、だな、アルト…」

 なんだか、いつもとは違いハッキリとしない二人だ。

 アルトがコハクに視線を向けると、女中ロイドは臆することなく問うてきた。

「アルト様は、ツバキ様とクーラ様、どちらのプロポーションがお好みでしょう? というお話が御座いまして」

「「そっ、そういう意味ではっ!」」

 侍巫女とセーラーマントの少女二人が、慌てている。

「どっちが好みって…ええっ!?」

 三人がどのような会話で、どうしてこのような質問に至ったのかはともかく、コハクの質問には興味があるらしい。

 ちなみに、お尻を触られたツバキと胸を触られたクーラともに、敗北感からのお嫁さん入りには、共感しているっぽい。

「「どっ、どっちなのだっ!?」ですかっ!?」

「どっ、どっちって…なんでっ?」

 少年漫画のラブコメでも見なくなったような質問に、アルトもアワアワしてしまう。

「わ、私はそのっ、胸がこうだがっ、ツバキは恵まれているだろうっ!?」

「某はっ、こんな小さなナリですしっ、クーラはしなやかで魅惑的でしょうっ!?」

 お互いに勢いでコンプレックスを曝け出してしまい、恥ずかしいらしい。

 と言うか、そもそも。

「そんな事言ったら、僕なんて男子の中でも背が小さいんだぞっ! 学校で朝礼なんかで並んだ時も、小学校の頃から高校生までっ、ずぅっっっと一番前だったしっ! 平均的な女子よりも背が低くてっ、いつもなんか惨めな想いをしてたしっ! 重たい荷物とか持ってもっ、感謝されるよりも可愛いとか笑われてたしっ!」

 正義を志す少年といえど、色々あるのだ。

「「そ、そうだつたのか…」ですか…」

 納得をしたらしい二人は、矛を収める。

「何であれ、御三人様はそれぞれに違う、素晴らしい魅力をお持ちなのです」

 そつのない慰めをくれた女中ロイドは、全てが平均以上のバランスを持っている。

「コハクの独り勝ちだーっ!」

 涙する三人。

「で、ですがこのコハク、そもそも人工物ですし…」

「「「そんな事 関係あるかーっ!」」」

「えぇ~…」

 とりあえず航宙船は、太陽系から脱出をする航路で決定をした。


                       ~第三十話 終わり~

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