第十四話 賞金を稼ごう!
「とにかく、しばらくは火星を拠点にして、賞金稼ぎを続けよう」
宇宙船を住居に出来るとはいえ、元々が依頼によって製造されたネコ型航宙船である小判丸には、生活必需品がほぼ全く詰まれていない。
なので、今は少しでも懸賞金を稼ぎたいアルトである。
「シャンプー、歯磨き、歯ブラシ、タオル各種…色々と必要だなぁ」
生前は、そういう事を全て、兄嫁たちがこなしてくれていたから、全て自分でまかなうのは初めてだ。
(…一人暮らしを始めるとか、こんな感じなのかな…)
忠実な女中さんがいるけど。
コハクに頼めば注文やらで取り寄せてくれるけれど、そもそもお金がないし、揃えるならば自分の目と手で確かめながら買い揃えたくもあった。
それに、予想外の出費がある。
「………宇宙船の停泊って、こんなにお金がかかるの…?」
「はい。宇宙港の設備を管理維持する為の、必要経費ですね」
と、コハクには笑顔で説明をされた。
ついでに。今の接岸使用料も支払わなければならないし、そのお金もない。
最悪、宇宙船そのものが没収されてしまうかもしれないのだ。
そうならない為にも、とにかくギルドに出入りをして、指名手配犯のチェック。
「メガ大砲のデリス…男狂わせのリーリャン…。特Aクラスの賞金首って、みんな凄い懸賞金なんだなぁ…」
宇宙時代に置いての接岸料金は、生前の月極駐車場よりは割と高額、くらいの感覚だから、このクラスを一人でも倒せれば左団扇である。
しかし、賞金のクラスはそのまま腕の確かさでもあり、アルトのような初心者では返り討ちに遭うのが目に見えている。
「コハクよりも戦闘に特化したバトルドロイドを従えている賞金首が相手ですと…コハクとはいえ、アルト様をお守りできる保証はしかねてしまいます…申し訳ありません。うぅ…」
貧しさに咽ぶ女中少女にも似て。
「いや、泣かなくても大丈夫だから…ね」
忠誠心の厚い女中ロボ娘の涙に困惑しながらも、そこそこの賞金首を狙う。
「この、連続銀行強盗の二人、オレタッチ&アスナッシーとか、ちょっと狙ってみようか。クラスはEだし、罪状は銀行強盗と…警備員や銀行員やお客さんなど三二八人殺害…か」
二人組の連続強盗らしく、犯行現場の様子から、武器は手持ちの銃器だけらしい。
今のアルトの実力と、得られる賞金とのバランスを考えると、試してみるには悪くないだろう。
「了解いたしました。それでは、超長距離検索で、手掛かりを探してみます」
家でもある宇宙船に戻って、小判丸の超検索センサーや超越ウェブで、手配者の情報を探して貰う。
惑星警察どころか惑星連邦所属の国家でさえ持ち得ていない超越技術は全て、コハクを製作した、魔法使いみたいな博士の手によるモノだ。
アルトはあまり考えない事だけど、たしか博士はコハクの事を「恒星系破壊兵器」とか言っていた。
(恒星系…つまり、太陽系規模の破壊が可能な、超大規模破壊兵器って事だよね…)
この従事大好きの平和少女と、ネコの姿な中型航宙船に、そんな超絶能力があるとか、想像できない。
しかし先日も、アルトに危険を及ぼそうとした賞金稼ぎに対して、えらく怒りを燃やしていた。
ブリッジの天井の、更に向こうの宇宙を見上げながら、思う。
(…もしコハクが本気になったら、この太陽系さえ 消滅してしまう…)
そんな兵器を発注した相手とは、どんな人物あるいは組織なのだろうか。
(博士の言い分だと、発注者に裏切り行為があったって事みたいだし…僕にコハクをくれたって事は、その連中よりは僕の方がマシって事なんだろうけど…)
しかし恒星系破壊兵器とか、規模が想像できい程の破壊兵器でもあって、アルトにはその力のリアリティーを感じる事は、できないでいた。
などとボンヤリしていたら、コハクが賞金首の情報をキャッチする。
「火星所属のコロニー、二番地の第二十アイランドの防犯カメラに。怪しい画像を検出。不明瞭ながら防犯マイクなどの音声データから、指名手配犯オレタッチー&アスナッシーと思われる二人組の隠れ家を、特定いたしました」
「ありがとう、コハク。って、火星のコロニーにいたの! なんて偶然…よし、行ってみよう!」
「了解しました」
追っている賞金首が、こんなご近所に隠れていた幸運。
「それにしても、スペースコロニーかぁ…」
そもそもそんな生活空間、生前の頃のアニメでしか、見たことが無かった。
「スペースコロニー 実現しているんだー。あれ、でも 地球とか火星付近でも、観なかったけど…?」
「それはですね」
モノ凄く簡単に言えば、巨大なコロニーとはいえ直径六キロ全長三十キロの円筒形だから、惑星規模で言えば小さすぎて、意識していないと肉眼では見落としてしまうらしい。
「アルト様も、視界のどこかでご覧になっていらっしゃったと思われますが、その記憶がないとおっしゃられるという事は、コロニーを意識されていなかった。という事だと思われます」
モニターで惑星などを眺めていると、そちらに意識を引っ張られて、小さなコロニーなどは気づけない。
という話だ。
「そうなんだ」
宇宙港から許可を貰って発進をすると、ネコ型航宙船はグングンと速度を上げて上昇をして、ほんの十数秒で、宇宙へと脱出。
こういう場合、停泊料金を踏み倒しでもしたら、銀河法によって全ての資格を剥奪されて有無を言わさずデッドオアアライブなので、港も短期間での発進許可をくれる場合が多い。
「スペースコロニー…どんな感じなんだろう」
ブリッジのモニターから見えるであろう人工構造物にワクワクしていると、コハクが情報をくれた。
「これから向かいます、二番地の第二十アイランドは、先の戦争で安定した居住が不可能になったまま、まだ修繕されていない、無人のコロニーです。という名目ですが、適当な犯罪者たちの根城にもなってしまっているコロニーですので、アルト様のご希望にそえる標準的なコロニーという環境では ございません」
「そうなんだ…っていう事は、目的の賞金首いがいの犯罪者も、隠れている可能性があるっていう事なの?」
「はい。少なくとも、Eランクの犯罪者と思われる生体反応が二組、コロニーの陸地面で確認されております」
直径六キロ全長三十キロの円筒形の、内面を六分割して三面ある陸地部分のそれぞれどこかに、各犯罪者が潜んでいる。
「まあ、出会う事はなさそうだけど…それぞれの隠れ場は解ってるの?」
「はい。本当にバラバラですので、注意は必要ですが、こちらが衝撃をしない限り、攻撃を受ける可能性は極めて低いと思われます」
「なるほど」
とにかく、目標は、連続強盗犯たちだ。
コロニーへと接近をすると、漸く見えて来た。
「あれがスペースコロニーか…。アニメとかで見た通りだなぁ」
大きな火星を背景に、小さく縦長な銀色の缶が複数、同じ方向を向いて並んで浮かんでいる感じ。
「あれ全部が、人の住むコロニーなのか…」
「すでに旧型ですし、二番地のコロニー群は独立火星群の拠点でもありましたので、現在はほぼ全て、修復前の状態と言えます」
言われて見ると、ダメージが生々しいコロニーや、破壊されたコロニーの残骸と思しき漂流物も、散見できた。
接近してゆくと、目的のコロニーはそれなりの速度で大きく見えてくるけれど、他のコロニーはそれほど大きくは見えてこない。
「コロニー間の距離は三百キロほど離れてますので、肉眼では距離を把握しづらいと思われます」
「そうだね…しかもなんか、空気がないからか距離とかに関係なく、みんなハッキリ鮮明に見えるし…」
なんか宇宙って、地上とは色々と違うんだなぁ。
と、あらためて実感するアルトだ。
「二番地の第二十アイランドへ、接近します」
距離感の無い鮮明画像のまま、コロニーの端へと近づいてゆく。
太陽側できなく反対の影側の港へと侵入を試みるのは、感知している指名手配犯の隠れ家に近いから。
という理由ではなく、太陽側の港は破壊されたままで、影側の港しか使用できないからである。
コロニーの港口が近づいてくると、距離感が解らなくて大きさも実感していないアルトは、ぶつかりそうな恐怖感を覚える。
「だ、大丈夫だとは、わかっているけど…」
宇宙空間で、静かに音もなく接近する金属の壁は、なかなか怖い。
円形の中心部分に四角くゲートが開いていて、そこが港口らしい。
「レーダー反応なし。港へ侵入します」
戦争の傷跡らしく、コロニー本体だけでなく港の中も、意外と破壊されている箇所が多かった。
ゲートが開きっぱなしなのも、その影響だろう。
「アルト様、小判丸を接岸させ、コロニーには徒歩で侵入される方がよろしいかと、提案いたします」
「まあ確かに…航宙船で入ったら絶対に目立つし、船の攻撃能力で犯罪者たちを撃ったら消滅しちゃって、ギルドに討伐の証明とか、出来なくなるもんね」
というワケで、ネコ型航宙船は港の一角に着岸。
まるでネコが休んているような姿勢で、ロックされた。
「接岸完了です。港の出入り口に、廃棄されているビークルが確認されました」
「犯人たちが使ってるのかな?」
「センサーによりますと、爆発物等は確認されておりませんので、野生化したビークルと思われます」
「野生化…? ビークルなのに…?」
その疑問は、すぐに解答を得る事となる。
~第十四話 終わり~
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