第59話

自分の持ち主であるミサが僕に何をしたのかを、知っているんだ。



「ミ、ミサはお笑いが大好きな女の子!」



「……うん」



僕は頷いた。



確かにミサはお笑いが大好きで、陽気な性格をしていた。



いつかお笑い芸人になるんだとクラスの中で言っていたことを思い出す。



だけど、ミサのお笑いは人を傷つけるものだった。



クラスメートを1人つるし上げ、その子の欠点を指さして笑うものだった。



思い出すと徐々に腹が立ってくる。



気づかれないよう、僕はそっと握り拳を作った。



「ミサは俺を何度も何度も読み返してネタを覚えて、クラスのみんなに披露してた!」



「へぇ、そうなんだ」



「そう! でも、そうしたらミサは……一人ぼっちになってしまった」



「へ?」



予想外の言葉に僕は首を傾げて本を見た。



本はうなだれて、今にも涙が頬を伝って落ちて行ってしまいそうだ。



「頑張ってネタを覚えて披露してみんなを笑わせても、ミサは陰で悪口を言われてたんだ。『あんなことしてバカじゃない』とか『ミサって頭悪そうだよねぇ』とか」



「そう……なんだ?」



初めて聞いた話だった。



ミサが陰口を言われていたなんて、思ってもいなかった。



「それでもミサはめげなかった。お笑い芸人たちをバカにするのは当たり前の事だ。体を張って笑いを取っている事をみんなわかっていないからだって、前向きにとらえていた。



でも……ミサへのイジメが始まってしまったんだ」



「イジメ? 待ってくれ、ミサは誰かにイジメられていたのか?」



「あぁ。小学生の頃だけど、クラスメートから無視されたりしていた」



あのミサがイジメにあっている光景なんて、僕には想像もできなかった。



いつも明るくて元気でクラスのムードメーカーなミサだ。



ミサの周りにはいつもたくさんの友人がいて、その友人たちを笑わせていたのはミサだった。



「だからミサは普通のお笑いをやめたんだ。それは間違いだってことにも気が付いていたけれど、自分がイジメられないためにそうするしかないと思ってしまった……」

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