第56話

「傘は雨の形をしているものに引き寄せられてるんだね」



「そうだ。ミミがルキに引き寄せられたように」



カエルの言葉がきっかけで、僕は本に質問しようとしていたことを思い出した。



「そうだった、僕は本に聞きたいことがあったんだ」



そう言うと、手の中の本がビクリと体を震わせた。



なぜだかわからないけれど、かなり怖がらせてしまっているようだ。



「君の持ち主って、誰?」



そう聞くが、本は返事をしなかった。



聞こえていなかったんだろうか?



「ねぇ、君の持ち主は誰?」



さっきよりも大きな声で聞く。



しかし、やっぱり返事はなかった。



「本、僕の声が聞こえてる!?」



至近距離で大声を張り上げると、カエルの方がびっくりして飛び跳ねた。



「安心しろ。ルキは無視をされているだけだ」



「無視?」



「無視だ。嘘をついてもすぐにバレるから、答えにくい事は無視をすることにしたんだろうな」



カエルの言葉に僕は本を見た。



本は僕から視線を外す。



どうやら図星みたいだ。



「本は僕に引き寄せられたはずなのに、どうして持ち主の名前を言えないんだよ?」



ムッとして強い口調になってそう言ってみても、本はなにも返事をしてくれなかった。



「そんな風に聞いてもダメだ。本はルキの事を怯えている。もっと優しくしないと」



「そんな事言われても……」



だいたい、僕は本を怖がらせるような事はしてない。



どうして怯えているのかもわからないんだ。



「あら、あなたイケメンねぇ。どこのなんていう本なの?」



1人で悶々としていると、カエルが突然オカマ口調でそんな事を言い出したので、僕は目を見開いた。



カエルは本にすり寄って色気を使っている。



「いきなりどうしたんだよ」



僕は心配になってカエルの額に手を伸ばした。



「熱でも出たのか?」



そう聞いて額に触れようとした僕の手を、カエルがパンッと払いのけた。



同時に睨まれて僕は瞬きを繰り返す。



「あたしに気安く触らないでよ! あたしは本だけに体を許すのよ!」



そのセリフには聞き覚えがあった。



【お笑い魂】に出ていた芸人のコントネタだ。

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