第43話
「口では言ってないが、態度で現しただろ」
「なんだよ。全部僕が悪いのか?」
風呂上がりでとても気分が良かったのに、カエルのせいで僕の気持ちは乱れ始める。
怒りと呼ぶにふさわしい感情が湧いてくるのがわかった。
「ミミはずっと1人でいた。そんな時やっと持ち主に通じるルキを見つけることができたんだぞ」
僕はカエルの声を聞きながらあぐらをかいて座った。
「僕はその持ち主のことが大嫌いなんだ。思い出したくないくらいに」
そう言いながら、僕は自分の胸がズキリと痛むのを感じていた。
あんな奴のために僕が傷つく必要なんてない。
そう思うのに、昔好きだった人の事を悪く言うのは、やっぱり僕自身も苦しいことだった。
「そうやって自分の気持ちにした目を向けないから、ずっと孤独なんだ」
カエルが冷静な口調でそう言った。
僕の心臓が一瞬止まりそうになるのがわかった。
「お前に僕のなにがわかるんだよ」
自分の声が震えている。
指先も小刻みに震えていて、悲しみと怒りの混ざり合った複雑な感情が生まれるのを感じる。
下手をすればカエルの事を殴ってしまうかもしれない。
そう思い、自分の手をギュッと握りしめた。
「わかるよ」
カエルの言葉が耳に響いた。
「大好きで、もっと一緒にいたいと思った人間から捨てられた気持ちは、俺の方が理解できる」
カエルは真っ直ぐに僕を見てそう言った。
僕はハッと息を飲んでカエルを見る。
カエルを捨てたのは間違いなくこの僕だ。
「物はそれでも仕方がないと思うしかないんだ。感情を表に出す手段がないからな。だけど人間は違う。
大切な縁を自分で作る事もできるし、切ることもできるんだ」
カエルの真剣なまなざしを見ていられなくなって、僕は視線を外してしまった。
「ミミはお前との縁を繋ぐためにここに来た。言葉が話せるようになったミミは一生懸命ルキに想いを伝えようとした。不器用でも、その気持ちはわかっただろ?」
カエルに言われて、ミミが僕に何度も頭を下げて来たのを思い出した。
「その縁を、ルキは簡単に切ったんだ。だけどその縁を修復することもできる。言葉が通じる今の状態なら、きっとまだ間に合う」
カエルの声が聞こえる中、外で小雨が降り始める音が聞こえ始めていた。
僕は窓の外を見る。
真っ暗な夜の街に、雨が降り注いでいる。
今ならまだ間に合う。
ミミをこの家に招き入れる事ができる。
僕は弾かれたように立ち上がり、家を出たのだった。
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