第42話

自分の部屋に入ると気持ちが落ち着いて来て、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。



夢を見る事もなく深い深い眠りに落ちた。



この町へ来てから色々な事があって、その疲れを一気に解消するような眠りだった。



「ルキ、起きろ」



とても気持ちよく眠っていたのにそんな声が聞こえて来て、僕は目を開けた。



外から入り込んできていた太陽の光はなくなり、代わりに暗闇に支配されていた。



「もう夜?」



「そうだ。一体いつまで眠るつもりだ」



部屋のドアの前で呆れた顔を浮かべているカエル。



まるで母親のようなセリフに僕は仏頂面を浮かべた。



「一階にはまだミミがいるんだろ?」



「ミミは帰った」



その言葉に僕は瞬きを繰り返した。



「帰ったって、どこに? ミミは家がないんだろ?」



「そうだ。だからいつも通りどこかの軒下に戻ったんだ」



「あ、そう……」



少しだけ心に引っかかるけれど、それならそれで別にかまわない。



僕は大きく欠伸をして頭をかいた。



「風呂に入ってくるよ」



僕はそう言い、カエルを押しのけて一階へと向かったのだった。



風呂に入ると白い毛が数本浮かんでいて、それがミミのものだとすぐに理解できた。



真っ黒になっていたから風呂を貸してやったようだ。



僕は手のひらにお湯を共に毛を浮かべて、排水溝へと流した。



きっともう二度と会う事はないだろう。



愛菜が持っていたぬいぐるみと僕の縁なんて、そんなに深いものではないのだから。



僕は簡単に体と髪を洗って風呂を出た。



途端に足元に仁王立ちをしているカエルがいたので、踏んづけてしまいそうになった。



「危ないだろ、なんでこんなところにいるんだよ」



僕は二本足で立って腕組みをして僕を睨み上げているカエルへ向けてそう言った。



なにやら怒っている様子だけれど、器用な仁王立ちには感心してしまいそうになる。



「お前はもう少し相手の気持ちを考えたほうがいい」



突然そう言われ、僕はキョトンとしてしまう。



どうやらカエルはミミが出て行った事が気に入らないようだ。



そしてミミが出て行った原因が僕にあると思っている。



「僕は出て行けなんて言ってない」



僕はそう言い、カエルの隣をすり抜けてキッチンへと向かった。



冷たい水道水で喉を潤す。

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