第28話

カエルがチョイスした大根チップスはかなりの美味だった。



間引かれた大根の種を使って本が一生懸命作ったおかし。



薄く切って油でサッと上げて塩を少々まぶしてある、簡単なものだったが食べ始めたら止まらない。



大昔に放送された白黒テレビを見ながら僕はカエルと一緒に大根チップスをつまむ。



「これ、美味しいね」



「だろ? 本の作るおかしはどれも絶品だが、これが一番好きだ」



「こんな料理の腕前があるのにどうして捨てられたのかな」



そう言ってから、自分の発言にハッとした。



当たり前だ。



この町に来る前に料理をふるまうことなんてできるわけがない。



本は、ただの本なんだから。



「人間は物の魅力のほんの一部しか知らないまま、物を捨ててしまう」



カエルはテレビへ視線を向けたままそう言った。



「そうなのかな?」



「おそらくはな。俺だって、動かされるだけじゃなくこうして自分の足で飛び跳ねたりしたかった。



そうすればきっとルキとももっと仲良くなれたはずだ。だけど、それが叶ったのは捨てられてからだった」



捨てられて、魂だけになってようやくその願いが叶ったんだ。



僕はカエルを膝の上に置いた。



プラスチックの感触は昔と変わらない。



「もし、僕はカエルを捨てずにいたら、僕はまだカエルと一緒に遊んでたかな?」



「それはないだろ。ルキはもう中学生になった」



「そうだよね……」



昔よく遊んだオモチャでも、月日が経てばいらなくなってしまう。



新しい物を次々と買って、古い物は捨ててしまう。



それは当たり前の事だし、成長するために必要なことだ。



だからカエルは僕を怨んだりしていないのだろう。



だけど、心の中の寂しさだけはどうしてもぬぐいきれないのかもしれない。



「そういえばカエルは聞かないね」



「何がだ?」



「どうして僕がこの町に迷い混んできたのか」



僕がそう言うと、カエルが膝の上から僕の顔を見上げて来た。



「交通事故にあったんだ。雨で、視界が悪かった」



僕は指先でカエルの背中を撫でる。



カエルは黙って僕の話を聞いていた。



「僕は大きな黒い傘をさして、学校から家に帰っていた。学校の近くには公園があって、そこを通り過ぎたら交差点なんだ。歩行者側は青信号が点滅していたけれど、車はいなかった。



そこの信号は一度赤に変わるとなかなか青にならない事で有名な信号なんだ。僕は雨と傘で視界の悪い中、点滅する信号を渡ろうとして……はねられた」

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