第17話

その中にはまだ使えるものもあったはずだ。



部屋の中を眺めていると、当時の様子が鮮明によみがえってくる。



部屋の中心には汽車のレールが走り、僕の傍らには積み木が転がっている。



夜になれば母親が枕元で絵本を読んでくれて、その時僕の手の中にあったのは……。



「……カエルのストラップ」



絵本の中に出てくるアマガエルが可愛くて、似たようなストラップを見つけた時母親に買ってもらったのだ。



僕の頭の中で当時のストラップと、今1階でいびきをかきながら寝ているカエルが一致していく。



嘘だ。



まさか、そんなことあるはずがない。



そう思っても、完全に否定することはできなかった。



あのカエルのストラップはまだ壊れていなかったが、引っ越す時に捨ててしまったんだ。



ボロボロに破れて読めなくなってしまった絵本と一緒に……。





翌日、目が覚めると祖父の家の2階にいた。



僕はぼんやりと天井を眺める。



「夢じゃなかったんだ……」



もう1度頬をつねってみると、やっぱり痛かった。



体を起こしてみるとあちこちが痛む。



馴れない山登りなんかしたから、体中が筋肉痛になっているようだ。



「いたたたた」



と、おじいちゃんみたいに腰を曲げてゆっくりと階段を下りて行く。



「起きたか」



カエルがテレビに視線を向けたままそう言った。



「あぁ……。おはよう」



テレビでは白黒のニュース番組が流れているが、今日のニュースじゃないことはもうわかっていた。



「そんなニュース見て面白いの?」



僕はカエルの隣に座ってそう聞いた。



「面白いさ。当時の日本を知ることができる」



「それよりも、最近の日本を知りたいとは思わないの?」



そう聞くと、カエルはチラリと僕を見て、またテレビに視線を戻した。



「今の日本はいずれ知る事が出来る」



「どういう意味?」



「捨てられた魂は一度はこの町に止まるんだ。その時に今の日本に出会う事ができる」



そういう意味か。



でもそれじゃやっぱりリアルタイムで今の日本を知る事はできないと言う事だ。



「あのさぁ。これって夢の世界じゃないんだよな?」



「まだそんな事を言ってるのか」



「いや、もう大分現実だって受け止めはじめてるけど……。お前は僕が持ってたカエルなんだろ?」



そう聞くと、カエルは僕を見た。



今度は自然を離さない。



僕は少し緊張して姿勢を正した。



「僕が寝る前に握りしめていたカエルのストラップ。昨日、思い出したんだ」



「……そうか」



カエルはニッと口角を上げて笑った。



「ルキが思っている通り、俺はストラップだ。壊れる前に本と一緒に捨てられて、この町に来た」

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