捨てられた町

西羽咲 花月

第1話

ふと気が付くと周囲は山に囲まれていた。



どうやら僕は小高い丘の上にいるらしく、雲ひとつない真っ青な空が頭上に広がっていた。



山の麓へと視線を泳がせてみると、蟻のように小さな民家やアパートが立ち並んでいるのが見えた。



その風景に僕は1人首をかしげる。



ここは一体どこだろう?



自分が暮らしている見慣れた街とは違うということが、ここから見下ろしただけでも理解できた。



丘の上には緑色の草木が元気よく生えていて、それ以外にはなにもない。



どうやら僕は自分の足でここまで来たようなのだけれど、全く記憶になかった。



「どうしよう」


そう呟いてみると、予想よりもはるかに情けない自分の声が聞こえて来た。



なにも覚えていないのだから、これから先どうすればいいのかもわからない。



僕は混乱したまま自分の服装を見おろしてみた。



いつものジーパンにいつもの白いTシャツ。



Tシャツの中央にはよくわからない英語が書かれていて、母親がバーゲンで買って来てきてくれ、部屋着として使っていたものだとわかった。



ここにきてようやく見覚えのあるものに出会えってホッと安堵のため息を吐き出し、僕は期待を胸にジーンズのポケットに手を入れた。



中には何も入っていない。



めげずに後のポケットも探す。



が、やっぱり何も入っていなかった。



「おかしいな、いつもジーンズのポケットにスマホを入れているのに……」



今日に限ってどこかへ忘れて来てしまったようだ。



ここまでたどり着いた経緯もわからないし、これから自分が何をしようとしていたのかも思い出せない。



おまけに連絡手段もないときた。



僕はさっきとは真逆の落胆のため息を漏らした。



深い深いため息に、自分自身が闇へと沈んで行ってしまいそうな感覚になる。



丘の上で見知らぬ街を見おろして途方に暮れていると、草の間からガサガサと物音が聞こえて来て僕は振り向いた。



僕の膝ほどの長さに成長している草が揺れている。



僕は前かがみになり、目を凝らしてそちらを見た。



ガサガサガサガサと、揺れは徐々にこちらへ近づいて来ているように見える。



野生動物だろうウサギとかキツネとか、そういった類の動物が頭をよぎった。



小動物ならほうっておけば害はないだろう。



そう思い、ガサガサと揺れる草をジッと見つめていた、その時だった。



草の揺れが一瞬収まったかと思うと、途端に何かがこちらへ向けて飛びかかって来たのだ。

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