第39話 元宇宙人探偵がたどりついた真相

 マジシャン屋敷に行ってから3日ほどが経つが、ドローンからも依頼人である富岡美咲からも何の連絡もなく平和にメシを食う日々が続いている。


「うまい! ふわふわだ!」

「お肉だけよりヘルシーですし、体にもいいと思いますよ」

「これは何と言う料理だ?」

「豆腐ハンバーグです」

「豆腐ハンバーグ!」


 たしかにふわふわ食感でうまいが、俺は普通のハンバーグの肉感アリアリの方が好きだなあ。

 また表に出られたら、嘉純さんとハンバーグ食いに行きたい。


 俺のスマホが鳴りだした。

 スマホに連絡があるということは、ドローンではないのでマジシャンの遺言書が消える事件とは関係ないな。

 新たな依頼か何かだろうか。


 当然食うことを優先してスマホに目もくれない。

 アヤが私が出てもいいんですか? と遠慮がちに聞いてくるので大きくうなずく。


「はい。天外探偵事務所です。……あ、美咲さん。ごきげんよう」

 はい、はい、ええ?! とリアクションが続く。

「分かりました、伺います!」


 ――何を勝手に行くと返事しているんだ、アヤは。勝手に探偵のスケジュールを組み立てるんじゃない。幼なじみの分際で。


 まだ表の思考は探偵と一緒に行動するのは助手であって幼なじみではないと理解していない。理解する機会もない。


「淀臣さん! なんとまた遺言書が消えたそうです!」

「ええ?!」


 まさか?!

 だって、家族全員に付けているドローンからは何の通知も……もしかして、真面目で勤勉なアウストラレレント星人にあるまじき、サボっている?!


 サボってなんかない! 失礼なことを言うな!


 9台のドローンから一斉に大音量の苦情が入る。うるさ!

 たしかに、こちらの声もよく聞いているし真面目に任務に当たっている様子だ。


 と、言うことは。

 ――なるほど、犯人が分かった。

 俺は大きすぎる思い違いをしていたんだ。そうなると、前提が覆る。


 あとはトリックか。マジックにはトリックが必ずあるんだったな。


 あの犯人からつながるのは、何だ?

 どんなトリックが考えられる?


 ――死にかけのマジシャン、長男の赤川夫妻、その娘である富岡美咲と勇樹、アメリカに単身赴任中の秀則、長女の青山夫妻とその独身の息子浩二、執事の森修とメイドの田代舞香、ペットのデカくて白い犬。

 24時間経つと消去されるビデオカメラ。周りに多数あったマジックの道具。

 24時間カメラが回る中、大人の男でも届かない場所にある遺言書が誰にも気付かれずに消失する状況。


 今日もアヤが連れて来てくれたハムスターを眺める。

 カラカラカラカラと今日も元気に回し車の中を走っている。


「アヤ、ハム二朗はなぜこんな意味のない行動をしているんだ」

「意味のない行動なんかじゃありませんよ。運動不足を解消しているんです。野生のハムスターはすっごく走るんですよ。だから、この狭いゲージでは運動不足になってしまうんです。ストレス解消にもなるそうですよ。やっぱり、狭い場所に閉じ込められたんじゃ人間だって息が詰まりますものね」

「へえ。意味のある行動だったのか」


 ハムスターのように口がパンパンになるほど豆腐ハンバーグを押し込み、スマホを取りだして検索を始める。

 ――なるほど。トリックも分かった。


「ごちそうさま。アヤ、赤川家の屋敷へ行く。すぐに車を!」

「分かりました!」




 車の中で、アヤが興奮気味に聞いてくる。

「何か分かったんですよね?! 淀臣さん! 教えてください!」

「すぐに分かることだ。俺は今探偵の晴れ舞台、推理ショーのシュミレーションに忙しい。邪魔をするな、アヤ」

「そんなあ! ヒントだけでも!」


 ――うるさいなあ。大事なところで噛んだらどうしてくれる。


 俺のスマホをアヤに投げ渡す。

「見れば分かるだろう」

「検索結果?」


 ――「犯人はあなただ!」

 とビシッと指を差し、黒い影が人に変わる。そしたら……。


「まさか……ハムスターが回し車を走るのと理由は同じってことですか」

「うるさい。その通りだ」

「心の声が出てますよ」


 車がマジシャン屋敷に着くと、すぐに富岡美咲が走って出て来て門を開ける。

「カメラの映像を見てください、探偵さん! ほんの一瞬、勇樹が飛ばした紙飛行機が画面を覆った隙に遺言書がなくなっているんです! 勇樹がいつどのタイミングでどこに紙飛行機を飛ばすかなんて、いくら一流マジシャンでも予測できません。そんな一瞬を利用するなんて、どんなトリックが使われたのかまるで分かりません!」

 美咲が柄にもなく早口にまくし立てる。よほど混乱しているのだろう。


「落ち着いてください、依頼人。映像を見るまでもない。俺にはすべてが分かっています。ご家族の皆さんを集めてください」

「え?」

「推理ショーの開幕です!」




 神棚のある広間に、動けない深紅の魔術師レッドローズを除いた家族7人と使用人2人、犬1匹が集まった。たしかに、神棚に遺言書と書かれた封筒はない。

「皆さん、お集りいただきありがとうございます」

「すべて分かったというのは本当ですか、探偵さん!」

「父の遺言書はどこに?!」

 長男の卓と長女の智子がまず食らいついてくる。まあまあまあ、と一人前の探偵のようにあしらう。


「ご安心ください、遺言書はすべて残っています。これは俺が用意した物です。これが今までに消えた遺言書のありかを教えてくれます」

 遺言書の文字はないが、同じような茶色い封筒を出して見せる。それを、ポトリと床に落とした。

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