5-2 吐露

「お客さん、大丈夫ですか?」


 早希は聞きなれない女性の声で目を覚ました。


「あまり長いこと眠っていらっしゃるので、失礼かとは思いましたが、声をかけさせていただきました」


 ここまで聞いて、早希はここが那楽華の湯であること、寝湯に浸かってそのまま寝てしまったことを思い出した。


「すみません。ちょっと寝てただけですから」


「お疲れなんですね。心労がおありなのではないですか?よろしければお聞きしますよ」


 いきなりの問いかけに早希が答えられずにいると、


「今すぐで、なくても結構です。あがられたらロビーのテーブルまでおいでください」


 梢女は言うと、そのままどこかへ行ってしまった。



 風呂からあがった早希はロビーに梢女をみとめた。


「どうぞこちらへ」


 言われるまま椅子に座ると、早希は重い口を開いた。


「実は子育てで悩んでいまして。娘が一人いるんですが、なかなか思うようにいかないんです」


「そうですか。……どのような時にそう思うのですか?」


「同じ間違いばかりするんですよ。例えば靴を三つも四つも玄関に出しっぱなしにしない。と言っても、またそれをやってしまうみたいな。そんなことが一週間に二回はあるんです」


「大変ですね。それでは悩みは娘さんが言うことを聞かないということでよろしいのでしょうか」


 自分の話すことに寄り添って聞いてくれる梢女に心を許し始めた早希は、さらなる悩みを打ち明けた。


「それが、まだあるんです。……そんな娘を見ていると、つい手が出てしまって……いけないとは分かっているのですけど……」


「そうですか。でも私も娘がいるんですが、お尻や手をパチンとすることはありますよ」


 早希は、折檻がその程度ではないこと、やってしまった後罪悪感に苛まれることを梢女に伝えた。

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