3-6 諭

 純子が次の日病院へ行くと、諭の楽しそうな声が聞こえた。こんな声は久しぶりに聞いたので、離れたところからニンマリしながら聞いていた。看護師さんとゲームについて話している様だったが、カタカナ言葉が多く、何を言っているのかは純子には理解できなかった。それでも諭の笑い声を聞くとなぜかホッとするのだった。


 ところが楽しそうな雰囲気から一転──看護師さんの謝る声が聞こえてきた。


「ごめんなさいね。患者さんとそういう付き合いをすることは、禁止されていて、できないんですよ」


「いいじゃない。ゲームの中でフレンドになるだけだから、大丈夫だって」


 純子はたまらず声をかけた。


「どうしたんです?」


「あんたは関係ないから黙っててよ」

 諭はイラつきを隠さなかった。


 看護師は純子に会釈をして去って行った。




 二週間が経ち、諭は退院した。


 退院した諭は部屋に引きこもることが少なくなった。もちろん家にいる時は部屋にこもっているのだが、一眼レフのカメラを首にぶら下げて、家を出て行くことが増えた。


 カメラは入院中に諭がネットで注文したものだった。


「カメラをぶら下げて、何してるんだろう」


 純子は気になったが、健治は気楽に考えていた。


「いいじゃないか。新しい趣味に目覚めたんだろう?ゲームやってるよりいいじゃないか」




 そんなある日、諭が顔を腫らして帰ってきた。


「くそう、くそう、くそう、くそう」

 怒っていることは分かったが、理由は聞いても答えなかった。そして、持って出たはずのカメラもどこにやったのか、肩にかけてはいなかった。


 それから二日間は、部屋に閉じこもり、顔を見せることはなかった。

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