第50話 夏祭り そのさん

「可奈には悪いことしちゃったかな?」


美玖が後ろを気にするように振り向いた。


「濱谷もなんだかんだで淳史との漫才を楽しんでそうだし、大丈夫じゃね?」


「……もう、可奈と古谷君の扱いが雑だよ?」


「あの2人はこれくらいの雑さで良いんだよ。2人とも気にしてないしな。」


「……可奈は普通に怒ってなかった?」


俺と美玖は笑い合いながら花火がよく見える位置まで移動した。

人は多かったけど、なんとか場所を確保する事が出来た。


「輝弘達は上手くやってるのかな?」


俺は輝弘と金澤の2人が気になっていた。


「あの2人なら大丈夫だよ。好き同士なんだもん。……ただ杏奈はツンデレだから、素直になれてるのか心配ではあるけどね。」


……金澤は好きな人に素直になれないタイプなのか。もしかしたら、美玖や濱谷は相談されてたりしたのかな?


俺がそんなことを考えていると夜空に綺麗な花火が打ち上がった。


「おっ、始まったみたいだな。」


「うん。……綺麗だね。」


花火を見上げている美玖の方が綺麗だよと言いかけて、周りに知らない人が沢山いたため気恥ずかしくなってやめた。


「皆と遊んでいる時間も楽しくて大好きだけど、猛と2人だけの時間はもっと好きだよ。……猛が私にもあの2人の良さを知ってもらいたいって考えながら動いてくれていたのも知ってるよ。猛以外の男は大嫌いだけど、あの2人だけは信用できるようになれたのも猛のおかげ……だから、ありがとう。」


美玖が言いながら繋いでいる手を少しだけ強く握ってきた。

美玖の男嫌いを無理に治す必要はないけど、輝弘と淳史は俺の親友だから、あの2人のことを理解してほしかった。


美玖と一緒に皆で気兼ねなく遊びたかったから。


「……俺はお礼を言われることは何もしてないよ。美玖が自分で頑張ってあの2人を観察して、大丈夫だって思えたからだよ。」


「……ううん、違うよ。私1人だけだったら、きっと観察しようともしなかった。猛が2人の為に、私の為にも動いてくれていたから、私ももう一度だけ頑張ってみようって思えたんだよ。」


俺は美玖の手を強く握り返した。美玖は俺の方に向き直った。


「私も頑張ったから、ご褒美が欲しいです。……ご褒美にキスしたいな。」


美玖の見つめる瞳から目を離せなくなった。花火の音や周りの喧騒が聞こえなくなって、今この場所には俺と美玖しかいないと思えた。


「わかった。」


俺は短く返事をして、美玖の肩に手を置いた。

美玖が目を閉じた。


俺は顔を近づけていき柔らかくて艶のある唇にキスをした。キスをしてから離れると美玖がゆっくりと目を開けて俺を見つめてきた。


「猛……大好き。」


「俺も……美玖の事が大好きだよ。」


美玖が再び目を閉じたのを見て俺もキスをした。俺たちは花火が上がって夜空を彩っている世界で2人だけになっているような気がした。


キスをした後は一緒に花火を見上げていた。

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