九
それからというもの、俺と彼女は部活動以外でもよく二人になった。彼女が喋ることのできる同年代の人間は妹を除けばいないそうなので、俺は頻繫に彼女に話しかけに行った。朝学校に来た時とか、休み時間、それに昼食時も。だが少し憂いがあり、詫摩と古川を引き合わせてみた。彼女は詫摩と古川を明るい人と極めて優しく表現し、打ち解けてくれたが、詫摩と古川はあまり俺と彼女の間に入ろうとはしなかった。輪を崩したくないらしい。二人とも良い友人だ。
また、俺は休日が来ると彼女と色々なところに行った。博物館では俺が歴史について弁舌をふるい、美術館では作品のストーリー性について話し合ったし、ブックカフェではお互いのお気に入りの小説を読みあった。詫摩からは、
「お前ら感性が狂ってるよ」
と言われたが、知ったことではない。あの時の彼女の惹かれる笑顔が演技であるのならば、彼女は早いとこ俺の下を離れて華の芸能界に踏み入った方がいい。何万人ものラブコールを受け取れるさ。それにその時俺もまた笑っているのだ。いつぞや、俺は彼女を運命の人だと確信していると言ったが、その確信はますます深まっている。
愛する人と世界を共有できる。まるで夢のようだ! それが現実であるからなお嬉しい。会うたびに俺は彼女を歓喜と発見と共に愛しなおす、鉄が火で熱せられ、槌で打たれ、冷やされることを繰り返すことで鋼に近づくように!
もうじき夏休みだ。しかし、補習とは名ばかりの授業週間が存在するので、本格的な休みは終業式の一週間先にある。嫌ではない。彼女と会えるのなら結構なことだ。大体、補習の初日は彼女の誕生日なのさ。
プレゼントを贈ろうと思う。小遣いやお年玉だとかの他人の金は使いたくない。そもそも、金で解決できるものを主体に置きたくはない。想いが伝わり、彼女が気に入ってくれる、そういう風な物を俺は彼女に贈りたいのだ。それは一体なんだろうか? 俺は深い思慮を張り巡らせつつ、ネットワークの網に引っかかっているものを痛く気に入った。それはブックカバーだ。
やることは簡単だ。まず街中で日雇いの土方に従事し、一万二千円を懐に入れる。それから彼女に送る予定のヴァレンシュタインとブックカバー製作に使う材料をAmazonで注文し、一日ほど座して待つ。そして、届いた材料とネットの記事を見比べながら試行錯誤の末にブックカバーが出来上がった。会心の出来だ。きっと喜んでくれるはず! それにしても、できることなら彼女の両親にも感謝を伝えたいのだがな。
終業式が終わり、鹿おどしに水が注がれるかのごとく補習が始まる。俺はその放課後に彼女を呼び出し、先のプレゼントを手渡した。その時の君の反応! 咄嗟にプレゼントで顔を隠したが、幾ばくか経って顔を半分だけそっと見せ、震えてしかし甘い声でそっと、ありがとう、と。俺は嬉しかった。人の為に動いて嬉しかったのだ! まさしく愛だ。
あぁ、傲慢不遜であるかもしれない。だが、俺は君に言わずにはいられない。
強く決意したのだ、彼女に告白しようと。
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