姥捨法
あびす
姥捨法
いつまで経っても解決しない高齢者問題に皆が頭を抱えていた時、とある政治家が画期的な政策を打ち出した。その名も「姥捨法」。「姥捨特区」と呼ばれる壁で囲まれた街を造り、そこに一定以上の年齢になった高齢者を隔離するのだ。街の中はバリアフリーで生活に不便はないが、自分達のことは自分達でしなくてはいけない。もし脱走でもしようものなら厳重に処罰する。
もちろん、残酷かつ非人道的だとして相当な批判があった。しかしこれ以外に方法も思いつかない。そして不安が残るもののこの法案は可決された。
それからしばらくの月日が流れた。
「父さん……」
「そう泣くな、俊雄。来るべき時が来た、それだけのことだ。お前ももう立派な父親じゃないか。わしは、暖かい家族に囲まれて幸せな人生だったよ。ありがとう」
「じゃあ、あっちでも元気で」
「ああ。行ってくる」
家族にはああやって強がったが、やはりいざ自分の身となると不安もある。特区の中はどうなっているのか想像もつかない。入口で手続きを済ませ、意を決して特区の中に足を踏み入れた。
まず驚かされたのは、想像していたよりも普通の街だったことだ。それどころかむしろ道行く人々の顔には活気が見える。てっきり死ぬのを待つだけの辛気臭い場所だけだと思っていた。
「おっ、新入りかい?みんな最初は驚くんだよ。想像と違ったってな」
通りすがりの男性が気さくに話しかけてきた。やはり高齢のようだが、活気に溢れているせいか若々しく見える。
「ええ、てっきりもっと暗い雰囲気の場所だと思っていました」
「はは、確かに初めはそうだったよ。だがな、ここでみんなで助け合いながら生活をする内に、不思議と充実感を感じるようになったんだよ。ここでは自分達でやらなきゃいけねえことが沢山ある。外の定年した後のだらだらした生活とは違う、張りのある毎日を送れるようになったんだ」
男性は楽しそうに笑う。
「体が悪くなったら医者もいるし、分からないことがあったら教師もいる。みんなベテランだしな。ここでの暮らしで認知症が改善されたってやつもいるんだ。自分のやるべきことがあるってのは、やっぱいいもんだな」
男性の話を聞いている内に、これからの人生に希望が出てきた。こんなところだったとはな。よし、自分だってやってやる。
「お、いい目になってきたな。まあ楽しくやろう。ここでの生活を楽しんで、盆の帰省の時に孫にでも話してやれよ」
姥捨法 あびす @abyss_elze
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます