第2話 電撃少女は実質駄菓子

 ――ぱちぱちっ。


 なんか、こんな音のする駄菓子あったよな、なんて思いながら俺はため息をつく。


「はは、好きな人、いたんだ…………」


 俺の座る階段の反対側で、虚空を見つめながら七海はぶつぶつとぼやいている。先程まで青く輝いていたその瞳は光を失い、暗く染まっている。


「おい」

「そりゃ、わたしもフラれますよね……。だってそんなの聞いてないもん。女には興味ねえから、みたいな顔して裏ではやることやってるんだ……」


 格好つけて興味なさそうにしてても、興味があるのが男子高校生だ。そこに男としてのプライドがある。やることは、やってないけどな!


「七海」

「……力が、欲しい。大それたことは言わないから、せんぱいが好きな人にこっぴどく振られて、私という大切な存在を思い出し、夏の星空の下、ただひたすらに私のもとへ走り出してしまうような力が」

「大それまくってるじゃねえか」

「あと、いっぱいお金が欲しいです」


 ……まじでなんの話?


 俺は呆れ顔で七海を見つめる。

 先程からずっと、彼女からはぱちぱちぱちぱちと青い光が散っていた。非常にうるさい。

 あと、ぱちぱち音の鳴る駄菓子の名前がどうしても思い出せなくて悔しい。


「なあ。そのぱちぱち止めてくれない?」

「……ふん。止めて欲しいならそれ相応の態度ってものがあると思うんです」


 七海は足を組むと、強気な視線をこちらに向けた。俺は即座に立ち上がる。


「帰るわ」

「なんで置いて帰るんですかああ! せんぱいの鬼! けだもの! ヤンキー!」

「よ、寄るな! 感電したらどうする!」


 ヤンキーはやめろ気にしてるんだから!

 七海が半泣きで叫ぶと、彼女の感情に呼応するように纏った光と音は強さを増す。


 ……認めよう。七海瑠夏からは電気のようなもの、電撃らしきものが出ている。


「な、なんですかその言い草! せんぱいのせいで私はこんな身体になってしまったんですよ!? 十六歳の身体を弄んで、責任は取らないって言うんですか!?」

「いやらしい言い方はよせ!」

「これじゃあまるで私、ピカチ……」

「……やめとこ? それ以上は」


 黄色くて可愛い電気ねずみちゃんの話はやめとこ? 


「……せんぱいの、せいだから。なんとかしてくださいよ」


 七海は拗ねたようにつぶやく。


「なんとかしてって言われてもだな……」


 俺は頭を掻く。

 七海とは長い付き合いだ。なんとかしてやりたい気持ちはある。あるが。


「とりあえず病院行く?」

「いや、そういうのいいので。今の私見たら、先生の方が腰抜かしちゃうので。むしろ抜かした腰がこの電気で治療されちゃうので」

「ちょっと何言ってるのかわかんない」


 七海が呆れたような目で俺を見る。


「……せんぱいって、そういうとこ疎いですよね」


 ため息までつかれた。

 心外だ。こっちだって七海の意味わからん状況に巻き込まれて迷惑しながらも真剣に考えているというのに。


「なにか、いいアイデアがあるとでも?」


 訊ねると、七海は唇を噛んでもじもじとそっぽを向く。頬がうっすら赤い。


「……だから。さっきから言ってるじゃないですか。わた、私と、付き合ってくださいよ」

「俺好きな人いるし」

「それさっき聞きましたからっ! 聞いた上で言ってるんですけど! 嫌がらせですか!?」

「とりあえず落ち着こ? ほら、ばちばちなってるから。深呼吸しよう、はい、すぅ、はぁ」

「……すぅ、はぁ」


 俺に倣って素直に深呼吸を始める七海。

 なんでそこだけは素直なんだろう。すごくいい子だけども。


 しかし、深呼吸は効果ありかもしれない。

 みるみるうちに青い光は落ち着いていき、ぱちぱちという音もしなくなっていく。


 やはりこの現象は、七海の感情に連動していると考えるべきなのだろうか。


「……落ち着きました。そしてせんぱいの意思が固いこともよく分かりました」

「分かってくれたか」

「とりあえず、せんぱいの好きな人教えてもらえますか?」

「なにがとりあえず?」


 教えるわけないだろう。

 なにされるか分かったもんじゃない。


「別に取って食べたりしませんよ。ただ――」


 七海は暗い笑みを浮かべ、右手を電撃でも繰り出しそうな形で顔の前に持ってくる。


「――この電撃で、その子に教えてやりますよ。どっちがせんぱいに相応しいのかを、ね」

「…………いやなにも出てないから。構えだけはすげえ格好いいなおい」


 こいつに教えるのだけはやめよう。

 そう思った。

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