ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

第1話 死んだ覚えは在りません!

 大学に行く気力も向上心も無く、高校を卒業後は町工場に毛の生えた様な工場で働いている。

 勿論工員で、毎日工作機械に油を注し黙々と同じ事の繰り返しだが不満は無い。

 

 仕事帰りに、コンビニで弁当とビールにフランクフルトを買い、神社の片隅で一杯やるのが土曜日の楽しみだ。

 弁当を食べ終えると、もう一本のビールが入った袋に空缶とゴミを入れ家路につく。

 

 地面が揺れる? 酔う量じゃ無いぞ?

 たかが缶ビール一本でって、おーお、木が揺れているって事は地震じゃねーのか揺れる訳だ。

 

 酔っ払いが揺れに合わせて歩くと結果は、などと間抜けな事を考えながら鳥居を潜って道路に出る。

 この先が僕のお家なーんちゃって。

 

 「キャー、危な・・・」

 

 煩いなぁ、車が来ていないのは確認済み何だが・・・


 * * * * * * * *

 

 静かですねー、さっきの悲鳴は何なんですか。

 ん、んんん、此処は何処私は・だ・あ・れ?

 前が見えないってか、明かり点いてますか? 陽が落ちるには早すぎますがねー。

 

 いや真面目な話し、何も無い。

 全く何も無いし、明るいのか暗いのか周囲の状況が何も判らない。

 手足の感覚はあるけれど、座っているとも立っているとも判らない。

 さてとどうしたものかねぇ。

 

 《ふむ、動じないのか鈍感なのか》

 

 (えーとどなたかな、ソナタは何者じゃと洒落てみるか)

 

 《お前さん、死んだ自覚は在るのか》

 

 (死んだって、俺の事かな)

 

 《そうじゃ。地震の影響でな鳥居の》

 

 (鳥居からは離れていましたよ)

 

 《最後まで聞け。地震で鳥居が揺れた時に扁額が外れて落下したのだが、運の悪い事に揺れに合わせて落ちたので、落ちると言うより飛ばされて見事お主の頭に》

 

 (ゴン、ですか)

 

 《おお、中々察しが良いのう》

 

 (あれって、大きいし重たいんでしょ)

 

 《うむ、一撃で仕留めたな》

 

 (俺って鹿か猪ですか。取り敢えず成仏するように南無南無って、神社の扁額に仕留められて南無は無いなぁ)

 

 《お前さん、随分気楽な性分じゃな》

 

 (深刻に考えても、なる様にしか成りませんからね)

 

 《調度良い、お前儂の世界に来ないか。生き返らせてやるぞ》

 

 (えーと何処ですか、俺って輪廻転生の輪に入るって事ですか)

 

 《いやいや、お主を仕留めた神が、気不味いので儂の世界に引き取ってくれんかと頼んできたのじゃ》

 

 (それって扁額の当て逃げじゃないですか。神様なのに鬼畜ですな)

 

 《儂も奴には借りが合ってなぁ、断りづらいのじゃ》

 

 (借りって、何の借りですか?)

 

 《天和を喰らってな。ボロ負けしたんだ》

 

 (賭け麻雀ですか、神様が麻雀で負けて魂のやり取りとか世も末ですねー。扁額落とした神様って、勝負事の神様ですよ。勝てっこ無い無い)

 

 《初めは調子が良かったのだがなぁ。糞!》

 

 (鴨を引っ掛ける為に、最初は旨い餌で釣るんですよ。神様なのに甘いねぇ。で、儂のところって何処ですか?)

 

 《良く聞いてくれた。軽いファンタジーの世界だ、魔法使いもいるぞ》

 

 (あのーそれって、有名なラノベの異世界転移物語の世界では)

 

 《良く似ているが、魔王討伐なんてホラ話は無いし勇者もいない。魔物というか獣は居るがな。それと夢と冒険のダンジョンが少し、チラホラとあるかな》

 

 (結構やばそうな世界じゃ無いですか。お断り、未来永劫輪廻の輪の中に居ても良いからお断りします。じゃーねー)

 

 《待て待てまて! 異世界転移なら神様特典があるじゃろう、優遇するぞ》

 

 (でもお高いんでしょ)

 

 《特典付きじゃ・・・ょ》

 

 (いま(ょ)が小さかったのは何か罠でも。俺はね、気楽で平穏な日常を求めて高卒で工場に勤め、日曜祝祭日休みの残業無しを楽しんでいたんですよ。それを捨てて迄、何を今更辛い世界に・・・)

 

 《判った、イージーライフを約束しよう。健康で長寿、人より抜きん出た魔力でどうだ》

 

 (バンバン人を殺す魔法は要らないけど、安楽な生活の為の魔法は欲しいですね)

 

 《それじゃ希望を述べてみよ。無理なら断るぞ》

 

 (健康で長寿に人より抜きん出た魔力は在るんですよね。土魔法に防御用の結界が欲しいな。鑑定も必要だし、危険を察知する能力と空間収納で良いです。あっ出来れば治癒魔法もお願いします。異世界転移って3K危険汚いきつい+臭い不便ですよね、移動の為の転移魔法もお願いします。一日テクテク歩くのってやだ!)

 

 《本当に、楽して身を守る魔法に偏っているな》

 

 (でもこれって、魔法の能力を貰っても使い熟せなければ意味ないんじゃね)

 

 《良し、お前の望んだ物は全て付けてやろう。魔法も思い通りに使える能力を与える。但し転移魔法は魔法陣と魔法陣の間の転移なので、転移魔法陣を好きな所に設置出来る能力だな。空間収納も無いので、魔法で作る最高峰の時間停止機能付きのマジックバックを作れる能力も付けてやるぞ》

 

 (で、現地語は読み書き出来るんですよね)

 

 《当然じゃそんな抜かりは無い。攻撃魔法が無いのは心もと無いので、雷撃魔法を付けておくぞ》

 

 (あー待って、生活魔法って有りますか? それが一番大事です)

 

 《フォフォフォ大事ない、付属品扱いだが付いておるぞ。神様特典は創造神の加護じゃ。現地でそれぞれの神殿に行き、神に祈れば意味が判るかるからな。達者で暮らせよ》

 

 (有り難う御座います神様。いけね行き先聞いて無いよー、大チョンボだー)

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