内国は上杉桃佳が忠義は、毘沙門天が染め上げし桃色につき。
十夜永ソフィア零
序
第1話 毘沙門天はテトラフィブロスフィアに在りしか
槍舞の試し稽古を終えた
熱めのシャワーが、彼女の細身を温める。いとこにして剣術の教官役の
既に空に日輪は無い。そして、月もかつてのようには無い夜空を彼女は見上げる。旧家の庭の暗がりを取り囲む
桃佳は、耳元に手を伸ばし、イヤフォンのノイズキャンセリングを有効にした。通りを行き交う自動車の音などが消え去る。
そして、桃佳は
イヤフォンを越し鼓膜を震わす音は何も入ってこない中、桃佳は、先程の父の
桃佳は、メッセージの内容よりも、それを伝える父の声色と古臭いフレーズを思い出し、ほくそ笑む。その声色はいつもより少し高く、気張ったものだった。
旧家の伝統を背負う父には、生真面目な性格である一方で、小心で恥ずかしがりなところがある。
その気性は、徳川の治世以来宮仕えを旨としてきた、
おとといに5つ年上の姉で国家甲種公務員試験の一次試験を突破済の
家名を背負い国に奉公することは、軍部が過度の権威を持ち一等国となる野心に覆われたかつての日本ならば、ひたすらに立派なことと考えられていた。しかし、国の経済成長が最優先事項となってからは、やっかいな調整事を多く抱える官僚職はお金儲けには縁のない善人もしくはお人好しが就くものと、世では考えられている。
父の
この1年ほどは、そこに、
明日は、その姉に先んじて、
正座を続けたまま
そして、第一隣接世界において、
既に、国防軍と霞が関との間での決定事項となった頃に、
ただ、初めての海外行きを前に、
ただし、
突如内国が位置することとなった新世界テトラビブロスフィアの初夜は完全な暗黒だった。日が沈み、その暗黒が訪れたとき、その暗黒に恐怖した人と、曇り空と思えばいいやとさほど気にしなかった人がいた。だが、暗黒の夜が続くうちに、大多数の人々は、星空を渇望した。その渇望の念は、おそらくは10億以上あるであろうテトラビブロスフィア上の隣接平行世界の無数の人々の集合(無)意識として覆い尽くした。ある日、リッフィの中の何かが反応した。そして、テトラビブロスフィアの夜に夜空を見上げた人々の眼に、共同幻想のように
だが、たとえ
この異能は、かつての火星軌道にほぼ相当する2天文単位の半径を持つ球体テトラビブロスフィアの外殻を覆うルッフィの流れを超光速で辿る力がなければ実現しないものだ。
テトラビブロスフィア上の内殻表層は、ベロネフィアと名付けられた、蹴鞠の糸筋と形容される繊維状体に覆われている。数万もの隣接世界を抱えると考えられるベロネフィアは互いに奇妙に絡み合いながらテトラビブロスフィアの内殻を廻っている。そうしてテトラビブロスフィアを巡る幾億もの隣接世界のそれぞれの距離は、光の速さで数分から数十分にまで離れることがある。だが、ルッフィを介した情報伝達は光速を超えて行われる、
もちろん、学業面でも優等生である
ゆえに、テトラビブロスフィアの地殻深くのルッフィに近づける南方の島での、ひとりプラネタリウムがどうなるのかという実験は、
(毘沙門天の思し召しが、この世にもいまだ覚えありますように)
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