第一章~チェリー~⑧
急に話しを振られた秀明が、たじろぎつつ、
「いや、それは、話しの流れでそうなっただけで……だいたい、朝日奈さんが、思わせぶりな態度で話して来るから……」
答えると、今度は、昭聞が反応し、
「秀明、おまえ、ナ二かされたんか? いや、どうせ、朝日奈さんと話せたことが嬉しくて、舞い上がってただけやろ?」
と、断言する口調で語ると、放送部の最高権力者が、追撃の矢を放つ。
「え~? 有間クン、一昨日、あんなことがあったばっかりやのに、もう朝日奈さんのことが気になってるん~? 最低やな~。これは、吉野さんに報告しないと~。『有間クンは、吉野さんに告白したばかりなのに、もう他の女の子に目移りしてます。こんな最低なオトコは、サッサと振ってあげましょう!!』って!」
部長の言葉に同調した昭聞が、
「秀明、短い幸せやったな……」
憐みの目で秀明を見つめると、愛理沙も、
「ゴメンな、有間……私が魅力的なばっかりに……あぁ、自分の美しさがコワい……」
ハンカチを取り出して、わざとらしく、ヨヨ……と、泣き崩れる真似をする。
ほぼ初対面の組み合わせとは思えないほど、連携のとれた三人の波状攻撃に、秀明は、「ナニを言うとんねん」と、呆れつつ、
「高梨センパイ、別にイイですよ? 亜莉寿の連絡先を知ってるのは、ボクだけですし! 亜莉寿との連絡役をボクに押し付けたのは、高梨センパイですからね。亜莉寿に報告できるモノなら、どうぞ、お好きなように」
と、勝ち誇った様に、翼に言い放った。
秀明の挑発に、今度は、翼が
「ハァ……」
と、ため息をつきつつ、
「あ~、そういう態度とるのね~」
と、つぶやき、
「あのね~、有間クン。別に、吉野さんと連絡を取る手段は、電子メールだけじゃないんよ~? 国際電話でも、手紙の国際郵便でも、連絡は取れるからね~。有間クンが希望するなら、今から学校に吉野さんのご実家の電話番号を聞いて、ご実家からアメリカの連絡先を聞いて、国際電話を掛けようか~? え~と、いま、西海岸は夜の八時過ぎかな~。まだ、そんなに遅くない時間やね~」
即座に米国との時差を考慮するなど、のんびりした口調に反した頭の回転の速さを感じさせつつ、流れるように紡がれる上級生の言葉に反応し、「このヒトなら、ホントにやりかねない」と、秀明の表情は、青ざめる。
「ついでに、私たちの前で、『アリス』とか呼んで、吉野さんの彼氏ヅラしてるよ~、ってコトも付け加えようかな~?」
とどめの一撃を放った翼に、顔色を失くした秀明は、
「すいませんでした! ホンマに勘弁してください!!」
と、テーブルに手をついて、頭を下げた。
その姿を目にした三人は、
「「「弱っ!!!」」」
と、声を揃えたあと、憐憫の表情で、彼を見つめる。
ちょうど、その時、
「大変お待たせいたしました~! 十五番の番号札のお客様~」
と、店内調理にタップリと時間を掛けたメニューを店員が運んできたため、四人のかしましい会話も小休止。
そして、ここからは、食事を済ませた翼と食欲のない秀明はドリンクで、セットメニューを注文した愛理沙と昭聞は、食事をとりながらの雑談となった。
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