第一章~チェリー~①
「その時、想ってん――――――。あぁ、このヒトって……」
いつもとは異なる雰囲気を感じさせる目の前の女子は、いったい、どんな言葉を口にするのだろう?
固唾を飲んで、その言葉を待つ。
そうして、愛理沙は、想いを告げる様に、つぶやいた。
「映画について、語ること以外、他に、なんにも取り柄が無いんやろうなって――――――」
(何の告白かと思ったら、やっぱり、そんなオチかい!!!!)
甘酸っぱい雰囲気を一蹴された秀明は、瞬時に気持ちを立て直し、
「──────そうそう、オレって何も取り柄が無いからね……」
腕組みをしながら、ウンウンと、うなづく。そうして返答した後、ほんのわずかの間をおいて、声を張り上げた。
「――――――って、その表情と今の流れなら、ここは、誉めるとこちゃうの!?」
その声に店内は、一瞬、静まり返る。
「兄ちゃん、あんまりハシャいで、可愛い彼女に振られんようにしぃや!」
隣の席に座るカップルと思しき大学生風の二人のうち、彼氏の方が、ニヤニヤと笑いながら、ツッコミを入れる。前に座る彼女の方も、
「ちょっと、やめたり……」
と、彼氏に向かって言いながら、クスクスと笑っている。
その彼氏と彼女のやり取りで、店内の雰囲気はなごみ、
「すいません! いきなり声をあげて……」
と、秀明が周囲に謝罪したことで、元の穏やかな空気を取り戻した。
一方の愛理沙は、肩をふるわせながら、笑いをこらえている。
「ちょっと、朝日奈さんのせいで、オレが変なヤツみたいになってるやんか!?」
「あ~、オモシロ! 有間、あんたホンマに面白いな」
「ナニ言うてんの? 朝日奈さんが、面白くしようとしてるだけやろ?」
秀明は、周囲に配慮したのか、小声でツッコミを入れる。
その言葉に、愛理沙は、すかさず質問を返す。
「それで、どうやった? 映画好きの有間から見て、私の演技力は?」
「ああ、朝日奈さんやったら、出来レースの日本アカデミー賞どころか、本場アメリカのアカデミー賞でも取れるんちゃう?」
「あ~、自分の才能が怖いわ。ハリウッドからオファーが来たら、どうしよう?」
「どこまで話しを広げてるの!?」
苦笑いしながら合いの手を入れる秀明に対して、愛理沙は、
「でも、有間の反応も良かったで! 一瞬、あっけに取られた表情から切り返してのノリツッコミ! お笑いには、瞬発力って言うん? 反応の素早さって、大事やんな、やっぱり」
「そうやろう? 瞬発力は、皐月賞馬ナリタタイシン並みの切れ味っていう自信はあるから!」
「はぁ!? ナニ意味のわからんこと言うてんの? そんなことよりさ、そうやって、迷惑ぶってるけど、ホンマはうれしかったんちゃうん?」
愛理沙も、秀明のトーンに合わせながら、小声で尋ねる。
「え?どういう意味?」
秀明が、問い返すと、
「だって、有間って……」
愛理沙は、ひと呼吸おいて、
「どうみても、女子にイジられるのが好きな、ドМやん」
「はい〜!?」
再び、声をあげ、周囲の静寂を破ったことを悟った秀明は、視線が重なった先ほどのカップルに、「ホンマ、すいません」と手を合わせて、目線で合図を送ったあと、
「誰が、Мやねん!? 人聞きの悪い!」
と、声のトーンを最小限にして、愛理沙にツッコミを返す。
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