シネマハウスへようこそ第二部
遊馬友仁
プロローグ~愛の才能~①
「へぇ~。吉野さんのお父さんとお母さんには、そんなエピソードがあったんですかぁ。なんというか───。とても、ロマンチックですね……」
関西国際空港から、阪急仁川駅に戻る車中の四十五分間、吉野亜莉寿の父・博明から、亜莉寿の母・真莉と学生時代に出会った頃の昔話をたっぷりと聞かされた有間秀明は、素直に、思ったことを口にした。
二人を乗せた車は、渋滞に巻き込まれることもなく、目的地に到着しようとしている。
「誉めてくれているのかな? ありがとう」
ハンドルを握りながら、博明は、三月まで娘の同級生だった助手席に座る少年に礼を述べつつ、
「しかし、『吉野さん』なんて、ずいぶん他人行儀じゃないか!? 普段は、ウチの娘のことを『亜莉寿』と呼んでくれているんじゃないのかい? 有間秀明クン!」
ニヤリと笑いながら、そんな言葉を口にする。
「あっ!? いや、その……すみません」
不意をつかれた秀明が、恐縮し、謝罪の言葉を述べようとすると、博明は、さらに頬をゆるめて、温和な声で、
「いやいや! 別にキミを問い詰めるつもりはないんだ。去年のクリスマスに、少し二人で話をさせてもらった時には、『亜莉寿さん』と呼んでくれていたじゃないか?」
そう語り掛ける博明に対して、秀明も
「そう言えば、そうでしたね……」
照れた様な笑みを浮かべる。
そんな様子の秀明に対し、博明は渡米直前に愛娘と交わした会話を披露した。
「最近、あの娘から聞かせてもらったんだよ。亜莉寿と言う名前の由来を話したら、『素敵な名前を付けてもらったね』って言ってもらったことがある、と……だから、彼には自分のことをファースト・ネームで呼んでもらうことにしたんだ、と」
「そうだったんですか――――――。でも、その……自分で口にしたことなんですが、あらためて、考えると、かなり恥ずかしいですね……」
さらに、頬を紅潮させて、秀明は眉のあたりを掻きつつ、
「でも、彼女に喜んでもらえていたのたら、嬉しいなって思います」
と、少しうつむきつつ、はにかむ様に微笑んだ。
そんな娘の同級生の姿を満足気に眺めながら、
「それに、有間クンには、もう少し我が家との距離を縮めてもらっても良いかな、と考えているからね!」
亜莉寿の父は、そう言葉を続けると、愛車をこの日の出発地にほど近い、阪急仁川駅前のコインパーキングへと導いた。
※
駐車場に車を停めた博明が
「じゃあ、行こうか……」
と、向かった先は、秀明の良く知っている場所だった。
「《ビデオ・アーカイブス》ですか!?」
彼は、思わず声を挙げ、
(何か亜莉寿が薦めてくれるビデオでもあるのか?)
などと、疑問を抱いていると、ちょうど店内からタバコを吸いに、入り口に出ていたレンタル・ショップの店長・吉野裕之が立っていた。
「待たせたな、裕之」
兄の博明が声を掛けると、
「おお~、ヒロ兄に、有間クン! そろそろ来てくれる頃かと思って待ってたわ。ほなら、店の中で話そか?」
弟の裕之も、吸いさしのタバコをショップ入口の脇にあるスタンド灰皿に捨て、兄の声に応じる。
状況が説明されないまま、自分を置き去りにして展開される二人の会話に困惑した表情を浮かべる秀明の様子を見て、
「大丈夫! そんなに緊張せんでエエから! あ~ちゃんからのお願いでもあるんやけど、ちょっとキミに頼みたいことがあるねん――――――。とりあえず、事務所の方に入って!」
笑顔を見せながら、裕之は、秀明を店内に促した。
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