エピローグ

金網と鉄格子で囲われた留置場で、ハミングが聞こえた。

ヴィヴァルディの「冬」第1楽章だった。


「静かにしなさい」

女性看守が金網を叩いて、ハミングをしていた囚人に注意をした。

ハミングがやんだ。


しかし、壱岐遥香が白い歯を見せて笑っていた。

「黒いオーケストラが、……鳴り響く」


看守はそれが大事件の予兆であるとは、気づかなかった。

壱岐遥香が漏らした重大な独り言は、本富士警察署留置管理課の業務日誌に記されることもなく埋もれていった。

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