Girls with Dirty Stigma
悠井すみれ
Stigma 結愛の場合
私は保健室のベッドに腰掛けている。ベッドを囲む白いカーテンの内側にいるのは、保険の先生と担任の
「
「何てことしたの!?」
おばさんふたりの悲鳴が耳に突き刺さる。予想はしてたけど大げさだなあ。今時タトゥーなんてそんなに珍しくないだろうに。……まあでもちょっと評判の良い女子高の生徒が
私の下腹部には、ピンク色でハートと花と蔓を図案化した模様が刻まれている。めっちゃ可愛い。
「着替えの時に騒いでいると思ったら──」
「親御さんにいただいた身体を傷つけるなんて……!」
大昔のエロいマンガみたいに、淫紋を入れたからってえっちな気分になるなんてことは、もちろんない。あんなのはバカみたいなフィクションだ。でも、可愛い色と模様を纏ってるって思うと気分がアガるし、先生たちが顔色変えて大騒ぎするのは楽しいかも。
浮き立つ気持ちに正直に、私は先生たちを見上げて、にっこり笑って首を傾げる。パニクって上擦った声でのお説教なんて、全然怖くないんだから?
「でも
「屁理屈を言うんじゃない!」
二段階くらいボリュームの上がった怒声が私の頭を揺らして、同時に左の頬を衝撃が襲った。うわお、体罰だ。じんじんと痛みが広がるにつれてビンタされた、って驚きも身体に広がってくみたい。でも──やっぱり怖くない。
反抗期、ってやつなのかな? 大人の言うことなんて信じない、何でも逆らってやる、って年ごろなの、私。子供は何も知らない? いつか後悔する? そうかもね。でも、それは今じゃない。大人しく良い子でいたからって、私の気分は収まらない。
だから今は、好きなようにするんだから。
* * *
今の人類は進化してるって、私たちは教わった。羽根が生えるとかエラ呼吸ができるとかテレパシーが使えるとかって夢がある方向じゃなくて、人間自身の技術によって、なのが残念なんだけど。でも、とにかく。特に女子は感謝すべきだって小学生のころから何度も言い聞かされている。耳にタコができるぐらい、何度も何度も。
それは、赤ちゃんのころに子宮と卵巣を取っちゃうのが普通になったから。今の時代、新生児の女の子の九十九点何パーセントだったかはその手術を受けている。国によって技術的・経済的・宗教的事情は色々だけど、とりあえずこの国では、そう。もちろん親の同意があってのことで、お父さんお母さんは私のお腹に小さな傷痕を残す手術を喜んで選択したってことだ。そうして取り出された私たちの原始卵胞? は冷凍保存されて、いつか赤ちゃんが欲しくなる時まで施設で眠ってる。子供を作るには、旦那さんとの同意のうえで、人工授精した受精卵を透明なキューブの人工子宮で育てるの。
そういう時代だから望まない妊娠で悩むこともないし、四十週も重たいお腹を抱えて苦労しなくて良い──っていうか、そもそも生理とかいう不衛生で不愉快な期間で人生を無駄にしなくても良い。キャリアの上でも生殖の上でも男の人との差がだいぶ縮まってるらしい。そういう、生物上の性差に苦労していた昔の女の人たちからしたら、私たちは絶対羨ましがられるはずで。私たちは今の時代に生まれたことに、技術の進歩に感謝しなくちゃいけないんだって。
それと──そういう訳だからセックスっていうのは好きな人とのコミュニケーションの一環としてヤるものであって、好奇心や欲望に流されてヤってはいけません、だって。中学生くらいから言葉を選んでそう言われ始めて、高校生にもなると割と直球で
でもまあ、高校生にもなれば彼氏だって彼女だってできるし、流れで
でも、小さいころから教えられてきたことって、意外と頭の奥まで染みついているのかなあ。
私の親友である
愛を確かめるための尊い営み以外のセックスってあるんだ、ってみんな思い出させられちゃった。生々しくて
私はちょっと頭に来ちゃったのだ。
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