第2話 二人の晩ごはん事情

 重い荷物を持ち僕はやっとの思いで家に着いた。そしてドアの鍵を開ける。

「荷物テーブルに置いといて。」

「はいよ。」

律は自分の部屋に行った。(僕の家にある律の部屋)

これが僕たちにとってごくごく普通の日常だ。


数分後、扉の開く音が聞こえた。

「おまたせ。今からご飯作るね。」

さっきとは明らかに声色が違う。

そこに現れたのはさっきとは全く違う幼馴染である。髪の長さは肩上ぐらいで艶があり、男装していたときにも目立っていた大きな目は本来の姿ではまた違う意味で役割を果たしている。きれいで可愛くて天使な幼馴染。正直、僕がこの天使の幼馴染ポジションを有してもいいのだろうか。これを知った男たちの視線はやばそうなのは容易に想像できる。


「僕もなにか手伝うよ。」

「それじゃ、サラダ作ってくれる?」

「了解」

すべてをりっちゃんに任せるのは悪いと思い毎日僕にできることは手伝うことにしている。そのおかげで家事全般は人並みにはできるようになったと思う。同居最高です。


 僕とりっちゃんは同居している。同居していると言ってもずっとふたりきりというわけではない。りっちゃんの両親は海外で働いているので僕の家にいる。本当はりっちゃんも一緒に行く予定だったのだが、本人が行きたくないと拒否し僕の家に住むことで話がついた。かと言って僕の親も仕事で忙しいわけで結局の所はふたりで住んでいる。時々帰ってくるけど…… 



「りっちゃんサラダで来たよ。」

「ありがとう。こっちもあと少しで終わるからゆっくりしていていいよ。」

「じゃあ、そうするよ。」

僕はりっちゃんの言葉に甘え、ソファに座った。


数分後…

「ご飯できたよ。でもまだご飯にするには早いかな?」

りっちゃんは僕の隣りに座った。

相変わらず距離が近い。いくら幼馴染といっても僕も健全な男子高校生だからね。ほんとにマジで。まあ当の本人は何も思ってないようだが…

そんな事を考えながら良からぬ考えを吹き飛ばし平然を装うよう努力する。

「お疲れ様。そうだね、少しゆっくりしようか。」 

そして僕たちは、いつも通り他愛もない話をしたり何気ない時間を1時間ほど過ごした。 

  

「よし、そろそろご飯にしようか。」

りっちゃんは台所の方に行き、配膳を始めた。それに僕も続き手伝う。

ご飯を食べるときの配置はいつも向かい合わせで食べている。

準備ができ、席につく。

「「いただきます。」」 

二人の声が部屋の中に響いた。


今日の晩御飯は僕のご要望通りオムライスだ。ケッチャップはお好みなのでテーブルの真ん中に置かれている。そして僕がケチャップを手に取ろうとしたとき、

「ちょっとまって。」

りっちゃんが急に止めてきた。

「なんだよ」

「私が成くんのにかくよ。」 

りっちゃんは僕の手にあるケチャップを奪った。

ケチャップを奪われた当の本人は困惑を隠せないままでいる。そんなことはお構いなしにりっちゃんは話しを続ける。 

「成くんは私になんて書いてほしい?」 

ただでさえ可愛すぎる幼馴染にオムライスにケッチャプに書くことを要求できるなんて今日僕、死ぬのではと頭の中で思考をめぐらしていた。

「ねえ、聞いてる。なんて書いてほしいの?」

返事のない僕に対してもう一度同じ質問を投げかけてくる。

そろそろ返答しないといけないと必死に考える。

「ごめん、何も思いつかない。おまかせじぁだめか?」

「それが一番困るなー」 

りっちゃんはうーんと頭を悩ませている。その姿も可愛いのだけれど。

「よし、これにしよう」

ケチャップで書き始める。

な・る・♡

ちょっと待てよ。天使に自分の名前を書いてもらえる。しかも♡付きで、しかもオムライスに。

「無難だけど、これでどうかな?」

無難って何?これって僕の感覚がおかしいの?

「ありがとう。うれしいよ。」

平然を装う。心のなか読まれたら終わるけど。

りっちゃんはうれしそうに笑って席についた。

 

 少々うれしいハプニングもあったが、その後はいつも通り楽しく話をしながらオムライスを食べた。

「ごちそうさま。美味しかったよ」

「それは、ケッチャップのおかげかな?」

完全にからかわてるな僕。そう思いながらも

「そうかも知れないな」

りっちゃんの顔を見ると少し顔が赤い気がした。

これはまさか照れてるのか?いや、そんなことはないか。思い上がりは良くない。

僕はそのまま食器をキッチンの流し場に持っていった。

「りっちゃん、もう食べ終わっただろ。食器持ってきて」

「はーい」

食器を持ちスタスタとこちらに来た。

「いつもありがとね」

食器をこちらに手渡す。

「ご飯の大半はりっちゃんがいつも作ってくれるからこれくらいはするよ」

流石にすべてを任せるわけにはいかない。これでは特にいいところもないのに家事も手伝わないダメ人間にまでなるわけにはいかない。

「先にお風呂入ってきていいよ」

「わかった。じゃあ入ってくるね」

そう言ってりっちゃんはリビングをあとにした。








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