新人・遠藤 未來の後悔
「ふむふむ。4人の中では、今後も
『小野田の能力をどのタイミングで発動させるか』
が課題だってことね。ま、マジでその通りだね。」
最終訓練が無事に終わったルーキーチーム。
彼らは、担当教官である楠田 知恵とともに、今後のために先日の振り返りを行なっていた。
#楠田 知恵__くすだ ちえ__# 26歳。
歳相応とは言い難い、大学生のようなノリの快活なメガネっ娘、というところだろうか。だが、スクワッド及び教官としての実力は確かだ。
「1番火力の高い志藤さんをトドメに持っていくのは、確定で良かったと思うんです。
でも、遠藤くんの『異能』は『必中』なので、わざわざ1番最初に足止めしなくても良かったんじゃないか、っていうのもあって…。」
チームのブレーンポジションである
鋼一は、より良い作戦を練ることに余念がない。
先日の一連の流れも、鋼一の発案による部分が大きかった。
「んー、言われてみればそうかもだけどー。結果的にはすっごい良い感じに成功したんだし、あんまり気にしなくてもいいと思うんだけどなー私は。」
「私は真世さんのタイミング、あそこで正解だったと思います。
いくら遠藤くんの攻撃が必ず当たるといっても、例えば目標が『回避系』の異能だったとしたら、着弾が遅くなっただろうし。もしそうだとしたら、真世さんの攻撃を当てることも難しかったのでは、と。
今回は時間制限もあったので、より確実に相手の体力を減らしたかったワケじゃないですか。テレポート直後の『不意打ち』、これが最善だったんじゃないかな。」
「あとは、もし僕と遠藤くんの攻撃で
『解除』があった場合のプランも立てておくべきだったかな、とも思うんだよね。万が一志藤さんが攻撃を加える前に『解除』できてたら…。」
「うんうん、『確実性』を求めるのなら、今回の順番で良かったんじゃないかな。ただ、これがもし『目標の確保』って内容の任務なら、また変わってくるじゃん?
要するに、作戦を遂行する上で大切なのは『適応力』、臨機応変さだよ。
だから、いろいろと考えるのはもちろん重要だけど…」
議論に花を咲かせる面々。
しかし、頬杖を突き上の空で、違う方面に思いを傾ける者がひとり。
「未來、どうしたー?アンタがこういう話にノってこないの、珍しいな?体調でも悪いんか?」
「えっ?!あ、あー!いやいや!俺もちゃんと考えてたぜ!まー俺としては?
俺と志藤の順番変えても良かったのかなー、なんて!」
それを聞いて、少しの間沈黙が流れる。
「ん。うーん、相手の装甲が堅い、ってパターンだったらそれがベターかもね。
僕と志藤さんで装甲を剥がして、あとは遠藤くんが…。でも、どうしても近接戦闘の方が、『解除』の成功率が上がるから、今回の場合…。」
議論はその後数十分続き、解散となった。
決して普段が不真面目というわけでもなく、むしろ、頭を使うことが苦手なだけで協調性はある未來だ。終始上の空だったそんな彼を、一同が心配したのは言うまでもなかった。
そして、一同にはある心当たりがあった。
「…遠藤くん、ちょっといいですか?」
解散となった後、ブリーフィングルームを出ようとする未來を、凛が一人で呼び止める。
「あの、今日の遠藤くん、いつもと違ったじゃないですか。違ったらごめんなさいなんですけど、私がリーダーを仰せつかって、遠藤くん、もしかして傷ついてるんじゃないかなって、自分がやりたかったって思ってるのかなって…その、心配になった、というか。」
まともに未來の目を見ることができず、やや下方に視線を送り、両手を下腹部で合わせてギュッと握りながら、凛は小さく細い声で問いかけた。
最終訓練後、ルーキー4人で行動する際の『リーダー』役が、正式に凛に決定された。
それに対し、未來以外の3人は
「未來がリーダーをやりたがっていたのではないか」
と懸念を抱いていたのである。
「…え?あ…あー、そんなんじゃねぇって!俺は、他の3人と同じで、リーダーはお前しかいないって思ってるよ!ホントだぜ!」
慌てて取り繕う未來。
「で、でも…。」
「ホントにホントだって!今日は、俺ちょっと疲れてたのかもな!心配かけて悪ィ、お、お先!」
未來は、慌てて荷物をまとめ、更衣室へと走り去っていく。
「も、もし悩みとかあったら、言ってくださいね!」
未來を気遣い言葉を選びつつ、駆け行く彼の背中に声を送る凛。彼女は不慣れながらも、リーダーとしての責務を、彼女なりに果たそうとしていた。
「…くそっ!凛のやつ…!」
隊員服から私服に着替えながら、未來は考えていた。
リーダーに任命された直後から、周りを気遣い、且つ偉そうには決してせず、『まとまり』をより強くしようと、真面目に努めている凛。
その姿を見せつけられ、未來は、考えていたのだ。
『あいつ、なんて立派なんだ。』
と。
そして彼はここ最近、ずっとこう悩んでいた。
「俺、最終訓練のあの時思わず
『ブルース!』って声かけちゃったけど
『ウルヴズ!』の方が良かったんじゃないか」
と。
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