新人・志藤 凛の喜び
「正義の弾丸、悪を撃つ!
雷鳴轟く、ライメードファイヤー!
ここに見参!!」
「…昨日と違うし…。」
ここは、とある高地の荒れた野。
4人のルーキーたちは、山吹長官と榊原司令をはじめとする、ズラリと並び座ったラージナンバースクワッドの高官たちの目の前で、緊張の面持ちで整列していた。
そして、1人1人の軽い自己紹介、ということになったのだが。
「ライメードファイヤー…コードネームか。ふむ、良いじゃないか。元気もあって実に素晴らしい。期待しているぞ、遠藤隊員。」
一茶子は手元の資料と未來を交互に見やり、優しく笑顔を返した。
「は、はい!ありがとうございます!」
それを見聞きした未來の顔も、パッと明るくなる。
「では、最後の方ですねェ。自己紹介、よろしくどうぞぉ。」
「は、はひ!し、しと!志藤 凛、でありまひゅ!14しゃいでひゅ!え、えっと!好きな食べ物は、お、オムライスでしゅ!」
慌てて目をクルクルと回しながら、呂律は回すことができない凛。身体もガチガチに固くなっている。
「うんうん、フレッシュでいいですねェ。けど大丈夫ですよォ、そんなに緊張しなくても。私たちは、キミたちを怒ったり否定したり、そういうコワイことをしに来てるワケではないですからねェ。」
「ひゃ、ひゃい!しゅみましぇん!」
「あ、逆に緊張させちゃったかなァ。ごめんねェ。」
「だ、大丈夫じぇす!こちらこそ、申し訳ありましぇん!」
「あらら、どうしようかなァ。」
「長官、ラチがあきませんから…。」
一切の他意なく、何とか凛の緊張を解そうとした欣二と、自らの緊張を失態と捉え、恥ずかしくてたまらない凛。
そんな2人の延々と続きそうなやり取りを、一茶子は思わず制止した。
「おお、ゴメンゴメン。それでは、最終訓練の説明をさせてもらうねェ。」
口髭を蓄えたヒョロヒョロのおじさんは、慌てて一茶子に目線を送った。
「…では、これより最終訓練に移る。
最終訓練の内容は、実戦を想定した、複数名のスクワッド隊員との模擬戦…。」
その時だった。
一茶子、そして欣二の元に、本部で留守番中の本間参謀から緊急通信が入る。
「長官、司令。お忙しいところ恐れ入ります、『フェーズ3』です。
目標は、そちらの…ポイントD3地区の市街地へ移動している模様。」
「ほう、この短期間にまたフェーズ3か…やはり…。D3地区、ここから数kmだな。」
「榊原くん、どうするゥ?僕行こうか?!最終訓練、中断するのも面倒でしょ?それに、たまには前線に立ちたくてねェ。」
「最終訓練のために、スクワッド隊員は私と長官を除いても、4名ここにおりますから…何も長官が行かなくても…。
…!そうですね、この状況…。」
一茶子は、戦いたくてウズウズしているおじさんに呆れつつ、ハッと何かを思いついた。
「諸君、待たせてすまない。
事情が変わった。最終訓練は、フェーズ3との実戦とする。これより、作戦を伝える。」
その言葉を聞いたルーキー4人の表情に、驚きと不安、喜びや悲しみ、様々な感情が渦を巻く。
「キミたちがいきなり市街戦をやるのはリスクが高い。
そこで、ここにいる、私を含めた何名かのスクワッドメンバーの中にいる
『テレポーター』が、目標をここの…このマークを付けた位置に『テレポート』させる。そこをキミたち4人で協力し、叩く。
…無論、万が一キミたちに生命の危険が及べば、私たちは必ず助けに入る。
だが、少々のことでは手は差し伸べない。
…いいな?」
一茶子は淡々と、且つ誰が聞いても優しさを感じ取ることができる、そんな口調でルーキーたちに指示を出す。
それを聞いた4人の顔に、熱い決意が漲り始めた。
「了解!」
声を合わせ、一斉に返事をする若者たち。
ついに、訓練の成果を見せる時だ。
「よし、ではこの後、私の合図の60秒後にテレポートを完了させる。それまでに、4人は『解除プラン』を練っておけ。合格のボーダーラインは、テレポート完了より『180秒』とする。
何か質問は?」
「は、はい!コードネームはどうしましょう?実戦ということなので、連携を取る時に、本名はマズいかなって…。」
質問をしたのは、凛だ。先ほどの緊張とは打って変わって、落ち着きを保っている。
「確かにその通りだ、ありがとう志藤隊員。では、決めていないのは、青倉隊員と小野田隊員だったな?
では、青倉隊員を
『ウルヴズブルース』、
小野田隊員を
『ミッドナイトワルツ』
と呼称する。
志藤隊員は…。」
「(何だよ、志藤のヤツ、結局自分で決めてんのか!へへ、熱いな!)」
そんなやり取りの中、皆の佇む高地の下方から、わかりやすく爆音と、瓦礫の崩れる音が鳴り響く。怪人が、近くまで迫っているようだ。
「…すまない、のんびりしている場合ではないようだ。志藤隊員は変身後、コードネームで名乗りを上げてくれ。」
「ひぇぇ?!…りょ、了解です!」
驚きながらも、一刻を争う事態への対処を冷静に考え、返事を返す凛。
4人は互いに目配せをしながら、初陣に対するチームワークを堅めようとしていた。
「…では、行くぞ!
戦闘準備!テレポート、開始!」
一茶子の合図とともに、4人は作戦会議を始める。猶予は60秒。だが、配置準備や変身の時間も考慮すると、50秒が限界だろう。その短い時間の中で、少年少女は、無駄のないミーティングを求められていた。
「間もなくだ!配置につけ!変身、承認!」
「変身!!」
一茶子の一声とともに一同は変身を終え、初々しいヒーロースーツに身を包んだ4人の若者たちと、怪人が現れる。
「ムムム?!何だねここは?吾輩は市街地で、破壊の限りを尽くしていたはずだが…?」
その後の展開は、怒涛の速さであった。
「オッケー、補足したよー。ライメード!」
#小野田 真世__おのだ まよ__# 14歳。
ミッドナイトワルツ。サポート要員。
一定範囲の目標の行動をスローにでき、対象が生物の場合、知覚もスローになる。
ミッドナイトワルツは両手を怪人に向け、『異能』を発動させた。
「任せろオオォォォォりゃアァァァァァァァァァァ!!行け!ブルース!」
遠藤 未來、ガンナー。
ライメードファイヤー。
『異能』により、対象に確実に弾を当てることができる。
両手に持ったスクワッド専用の強化型銃「ハイパースカラーブレイカー」のビーム弾を、全て命中させるライメードファイヤー。
「わかった!!ウオォォォォォォォォ!!…トドメは任せたよ!」
#青倉 鋼一__あおくら こういち__# 15歳。
ウルヴズブルース、スピード型。
『異能』発動中は、超高速で活動することができる。
ウルヴズブルースは、フラつく怪人に超スピードで迫り、連撃で着実にダメージを与えながら、上空へ打ち上げた。
「私は…
私の名前は!!
マイティシトリン!!
みんなの笑顔と財産を!!
私が絶対!守りまァァァァす!!」
志藤 凛、万能型。
肉体超強化により、あらゆる局面に対応できる。
凛は確実にダメージが入り、宙に放り出された怪人目掛けて、脚力超強化で飛び上がり、瞬く間に腕力を超強化し、痛烈な拳を一撃、見舞った。
寝ずに考えた、自慢のコードネームは
マイティシトリン。
「ほほゥ、78秒。4人がかりとは言え、大したものです。目標の半分以下じゃないですか。皆さん、本当に頑張りましたねェ。お疲れ様ですよォ。」
「ありがとうございます!!」
怪人は、地面に叩きつけられノビた後、しばらくして人間へと戻り、搬送された。
そして今、初めての訓練、もとい任務を終えた4人のルーキーたちが、晴れて正式に『スクワッド』として認められた。
「にしても、とってもステキですねぇ
『マイティシトリン』。元気で明るいアナタにピッタリだ。」
「ええ、私もそう思います、長官。」
長官と司令は、恥ずかしさや誇らしさの入り混じる、複雑な表情を浮かべた凛に、温かな笑顔を向けた。
「あ、あの!ありがとうございます!褒めていただけて、とっても嬉しいです!」
「うんうん。じゃ、皆さん疲れたでしょ。このへんで終わりにして、みんなで食堂に、オムライス食べに行きましょうかねェ。」
ルーキーたちに、大きな笑顔が灯る。
しかしそんな中、若者たちの元気に押し負ける者が、1人。
「ただ今ァー。」
今日もまた、一茶子はサボテンの
「サカモトくん」に声をかけ、そしてサカモトくんを抱えてフラフラと一目散にベッドを目指し、そして倒れ込んだ。
サカモトくんは頭上だ。
「つ、疲れたァ…久しぶりに
『ノールック局所テレポート』
なんて荒技使っちゃったよ…。ただでさえ疲れるのに、久しぶりなモンだから…余計に…。
ふあぁ…若者たち、すごい活き活きしてたなぁ…全然疲れてなさそうだったし、食堂直行だったもんなぁ…。
『私も若くないんだ』って、なんか悲しくなっちゃったよ、サカモトくぅん…。」
榊原 一茶子、33歳 独身。
異能のジャンルとしては珍しい、
『テレポーター』である。
自分や、自分が直接触れたモノをテレポートさせることは造作もないし、テレポート先は、自分が認知している場所であれば、範囲は地球全体に及ぶ、と言って差し支えない。
手に触れていないモノも、その位置さえ分かればテレポートさせることが可能であり、その能力の有効範囲は、自分の半径5kmにも及ぶ。
しかし有効範囲内だとしても、距離が遠くなるにつれ難易度と疲労度が上がるし、且つ視認ができず、オペレーターからの位置情報のみを頼りに行なった今日の能力行使は、身体への負担が尋常ではなかった。
「私もみんなとオムライス…食べたかった…。」
その難易度と疲労度を知っている山吹長官に気遣われ、一茶子は直帰していた。
まぁもし今日食堂に行っていたら、疲れ過ぎて食事中に倒れることになっていたであろうが。
一茶子の災難は、これからもまだまだ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます