参謀・本間 善太の奮闘

この世には、ただそこにいるだけで貧乏くじを引いてしまう、哀れな人間がいる。


ラージナンバースクワッド参謀、

本間善太ほんま ぜんたもその1人だ。


29歳、独身。

両親は既に亡くなり、歳の離れた妹と2人暮らし。

身長196cmの巨体、そしてガチガチの体格は、そこにいるだけで周囲を圧倒する。


しかし、「気は優しくて力持ち」を地で行く男。

それが善太である。


増えすぎた人件費の削減対象に、管理職にも関わらず自らをすすんで追加し、部下の給与水準を下げまいとしている、そんな日々だ。


正義と平和、妹と一茶子を誰よりも愛している。



「(我々の仕事は、異能犯罪から人々を守り、少しでも長く平和を保つことだ。

だから、怪人、特に凶悪で強力な者が出ないのはいいことだ。


いいこと、なのだが…!)」



自分で自分の給与を減らしたものの、育ち盛りの妹の食費は減らせるわけがない。

善太は、迷わず自らの食費を削っていた。


「流石に、腹が減ったな…。」


善太は、削減から向こう1ヶ月、ほぼタンパク質と水分のみで生きていた。

食の楽しみといえば、カロリーメイトを1度に4本全て食べることである。


今日は非番。空腹を紛らすため、必死に自宅で筋トレをしていた。

中学生の妹には心配させまいと、普段は

「食べて帰る」と伝えてある。

嘘ではない。

だって帰りに、買い貯めしてあるカロリーメイトを食べているのだから。


が、善太の胃袋には今、限界が来ていた。無論、心にもだ。


「(1ヶ月…プロテイン以外を口にできないのがこんなに辛いとは…甘くみていた…。

カロリーメイトも大好きだが…オンリーはキツい…。猛烈に、ジャンクなモノが食べたい…。)」


腕立ての手が止まる。


「(そ、そうだ。手持ちは2000円くらい。給料日まで1週間…。ムクロナルドでハンバーガー数個買うくらいの余裕はある。今日だけは…問題ないはずだ!もうすぐ茜も帰ってくるし…茜の分も買って来よう!うむ!)」


思い立ったらすぐに行動に移す男。

それが善太である。

善太は汗だくのまま、サッと外用のタンクトップに着替える。

向かうはムクロナルドだ。



一方その頃。



「こちらコーラル1!ダメです!我々の武装では歯が立ちません!」


「何?15人がかりで『解除』されないということは…。既にフェーズ3に入っているということか。」


名も無き部隊長が、一茶子に通信を送る。今回の相手は、いつもより少しばかり強力なようだ。


「ほっほほほほ。清々しい気分です。

スカラー線に、私は選ばれた!

この力、この昂り!私こそ地球の王!

今から『帝王・コレイゾン』と名乗ることにしましょう!」


「し、司令!こ、これがフェーズ3なのですか…我々の隊は、フェーズ3と対峙したことがないため…くっ!なんて凶悪な物言いなんだ!」


「コーラル1、落ち着け。だいたい皆そんな感じだろう。」


スカラー化の件数自体が減ってきているばかりか、スカラー汚染の危険値、つまり「フェーズ」の高い怪人が現れる件数も比例して減っている。つまりは、現場の末端がそれに対処する機会も、激減しているのだ。


「フェーズ3では『スカラーブレイカー』も効果が薄いか。よし、『スクワッド』に出動要請。基地内にいる者は?」


「基地内、ルーキーの志藤隊員、遠藤隊員が訓練中です。あとのメンバーは…

皆、ボーリングをしに行ったようです!」


「くそっアイツら!普段は

『事件が無くてヒマすぎる、身体が鈍る』

とか散々言ってるくせに!!」


『スクワッド』とは、スカラー線の影響で『異能』を発現させ、常人よりも遥かに強い者たちの総称である。そのため、一般部隊が手に負えない相手の対処は、スクワッドが行なうことになる。

ただこちらも増えすぎたため、現状かなりの人数がいる。にも関わらずヒマなので、皆基地内待機に飽きてしまっているのだ。



「ルーキー、特にその2人はまだ日が浅い。対処は難しいだろう。

仕方がない…現場に最も近い『スクワッド』に要請を出せ!」


「了解!…サーチ完了!


…本間参謀ですね…。」

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