未知との大遭遇 〜4〜

「総司、どうだ?!コックピットの座り心地は!」


士郎は豪快に、そして優しく、嬉々としてインカムで総司に尋ねる。

下半身を不自由にした総司に合わせて作られた、まさに総司のためのマシンだ。操縦方法や、特殊な車椅子がそのままコックピットに連動するなど、完璧なサポートであった。


「おっちゃん・・・最高だよ。まさかこんな日が来るなんて、思ってもいなかった。確かにバイクはムリだけど、これなら俺も操縦できる。」


感極まって、総司の声が上ずる。スピーカー越しにそれを聞き、士郎、そして百合子も目を潤ませた。

ガレージの中を、ガシャリ、ガシャリと、マシンでの一歩一歩を、自分のもののように受け止めて、歩き回る総司。


その総司に、士郎が鼻声で問いかける。


「風を感じる、ってのはできないかもしれんがな。まぁ、それは許してくれよ!」


「ふふ、確かにそいつは残念だ。だけど、そんな贅沢言わないよ。またマシンに乗れる、ってだけで充分さ。ありがとう。」


総司の眼に、涙が浮かぶ。


「・・・へへ!2人とも、俺なんか燃えてきたぜ。よし、決めた!俺はこいつの普及に人肌脱ぐぜ!そんで、ロボットレースをやるんだ!」


士郎と百合子は、子供のように泣き出した。


「総司さん、名前・・・名前、決めてくらさい・・・。総司さんに決めてもらおう、って、私たちまだ、決めてないんです。」


鼻声で、百合子がインカムに語りかける。

その顔は、女の子なら人に見られると恥ずかしくなるレベルまで崩れていた。総司の目には、ロボットのカメラで捉えられていたが。


「そうか、俺が決めていいのか・・・!そうだな、じゃあ・・・」


「大変だぁぁぁぁ!!じいちゃん!姉ちゃん!」


総司が言い終わる前に、1人の少年が嬉しそうに、それでいて大慌てで駆け寄ってきた。


「どうしたの鉄矢!さては、また健ちゃんとイタズラでもしたんでしょ!」


内容を聞かずに決めつける、百合子の悪いクセである。


「違うよ姉ちゃん!・・・あっ!もしかして総司にいちゃん乗ってるの?!こんにちは!」


鉄矢はちゃんと挨拶を忘れない、良い子である。彼はロボットに向け、大きく手を振った。総司もアームを操作し、練習がてら手を振ってみせる。


「おう鉄矢、久しぶり!で、どうしたんだよ慌てて。」


「あぁ、うん!健ちゃんのスマホでニュース見せてもらったんだ!宇宙人!宇宙人が来て暴れてるんだよ!・・・なんか信じてもらえなさそうだから、姉ちゃん!スマホ!」


鉄矢はスマホを持たせてもらっていなかった。百合子はそれを聞き、急いでスマホを取り出す。そしてニュース画面を、士郎と2人で覗き込んだ。


「俺!俺も見たい!でもスマホおっちゃんの部屋に置いて来ちゃった!」


悔しがる総司。


「じゃあ姉ちゃん、コックピットにURL送ってあげてよ。そんな機能付けたよね。」


鉄矢がさらりと言うと、総司は驚きの声を上げた。


「そんな機能あんの?!すげぇ!早く!百合ちゃん早く送って!」


総司は、舞い上がってコックピットではしゃぎまくり、心なしかロボットも揺れているようだ。マシンに乗れたこと、そしていきなり宇宙人。喜ぶのは無理もなかった。


「うわ何コレェ・・・!ビーム撃ってるゥ!」


士郎が叫ぶ。


「うわ!なんかロボ出て来たぞ!コイツもビーム撃つのかな?!」


総司も叫ぶ。


「大変。悪い宇宙人なのかな…このままじゃ被害が広がっちゃうよ・・・。」


百合子は、悲しそうに総司に問いかけた。

ニュース動画では、宇宙船からビーム発射、その後に中からロボットが降下し、街中を走り回り、一部の建物を損壊させるまでの一部始終が流されていた。


「クソッ、いきなり来て好き勝手しやがって!・・・近いな。おっちゃん、これビームは出ないよな?」


「うん、流石に出ないな。」


「何か武器は?」


「うん、銛かな。あとアンカー。」


「・・・イケるかな。」


「うーん。見た感じだと、多分ビームには多少耐えるぞ。」


「マジで?!・・・行っていい?」


「言うと思った!お前止めても行くじゃん?いいに決まってるだろォォォ最高の展開だァふっふーぅ!」


士郎は、サムズアップにガッツポーズ、その場でスキップし始めるなど、その喜びを全身で表に出す。その姿は、いい歳をしたおっさんとは思えない。


「ちょ、おじいちゃんも総司さんも何無茶言ってるの!危ないよそんなの!まだ試運転もしてないのに!総司さん、行っちゃダメよ!」


男たちの無謀な会話を、百合子が遮った。

しかし2人の男、そしてそれを聞いた1人の少年は、百合子の言葉に耳を傾ける様子はなかった。


「姉ちゃん、総司兄ちゃんなら絶対に大丈夫さ。まぁ・・・根拠はないけど、ホラ、兄ちゃんは主人公だから。」


鉄矢は、狼狽える百合子を必死でなだめる。

その姿勢は、小学生とは思えない頼もしさがあった。


「百合ちゃん、ありがとう。でも俺は行くよ。放っておけないだろ?このままじゃ、きっとここも危ないぜ。」


「でも!総司さん死んじゃいますよ!!」


先程までの泣き方と異なり、悲しむ一方の百合子。だがそんな少女の悲愴をよそに、総司はふっと笑う。


「百合ちゃん、鉄矢の言う通り俺は大丈夫だ。今日までの俺は、死んだも同然だった。けど、みんなのお陰で生き返ることができた。だからもう、怖いものなんか無いんだよ。それに、俺はもう二度と死なないしな!」


男はじわじわとエンジンをかけていく。それは、老人と少年も同じであった。


「おっちゃん、ゴメンな。壊すかも。」


「気にするな。元よりそのつもりだし、壊れるのも直るのも、ロボットモノのお約束よ。通信でサポートもしてやるさ。俺の夢、お前に託すぞ。」


ふっ、と微笑み、士郎は親指を立てる。


「そいつは違うぜおっちゃん。こいつはもう、『俺たちの夢』だ!じゃ、行ってくる!」


「待って兄ちゃん、バイク形態に変形した方が速いよ!『バイク形態』ってなんかイマイチだから、変形するときにカッコいい名前付けて叫んでよ!」


鉄矢がいつの間にかインカムを着け、総司に指示を出す。ノリノリであった。


「何だよコイツ!スゴすぎだろ!おっちゃんアンタ天才だよ!あっホントだ『変形』ってボタンがある。テプラはダサい!」


総司はさらにはしゃぎまくる。そして、ついにその時は訪れた。


「よっしゃ行くぞ!GO!アルティランダー・ストライクモォォォード!」


ボタンを押すと、わずか数秒で、バイクと呼ぶには無骨だが、二足歩行ロボットから、二輪の車両形態に変形を遂げた。

アルティランダーと名付けられたロボットは、今、多くの夢を乗せて走り出す。


「アルティランダー!発進!」


掛け声と共に、ガレージをゆっくりと出る。そして車道に出た後は、徐々にスピードを増し、そのまま全速力だ。

風を感じることは難しいと聞いた総司だが、彼はその時、疾風と化していた。


「総司のくせに、めちゃくちゃカッコいい名前付けやがって・・・!」


士郎は目を擦り、呟く。


「総司さん・・・嬉しそう。」


「姉ちゃん、しっかり支えてあげなきゃダメだよ。総司兄ちゃん、多分モテるから。ライバルキャラが出てくるのもお約束、って感じだし。」


ニヤッ、と笑いながら鉄矢は百合子を煽る。

この時、インカムのスイッチを切っているのがまたニクいところである。


「うん、頑張る。・・・って、鉄矢のバカ!」


「どうしたんだよ百合ちゃん、うるさいぞ!」

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