第12話「じゃあ250回殴れ!」

 第12話 じゃあ250回殴れ!


 ◆


 そう言うと咲はさっさと構えて次の段階へと移行する。


「エボリューション2!!」


 ゴゴゴっと気と言う名のオーラが激しく立ち上り咲は気力に満ちた。


「斬空剣!!」


 言って、構えて、発射したそれは紛れもなく飛ぶ斬撃で、しかも今回は3個飛んでいった。

 サンドバックくんにヒットしたそれは10、10、10と数字を叩き出し、また回復した。

「あーそう言えば咲はまだレベル10だから斬空剣とエボリューション、エボリューション2しか出来ないんだったな」


 忘れてたわと言う風な姫、ハイレベルなプレイヤーなだけに感覚がマヒしているのだろう。


「そういうこと、それを無理やり秘奥義で3まで上げようって話」


「んじゃ……問題の3だな」


「うん……」


 咲は秘奥義に必要な発動キーを発声する。


『溢れ出る魔力よ、限界を超える! はぁー! エボリューション3!』


 たちどころに咲は進化した…といっても見た目は変わっていないのだが、周りに漂うオーラの量が増加した。


「斬空剣!」


 言って、構えて、発射したそれは紛れもなく飛ぶ斬撃で、しかも今回は6個飛んでいった。

 サンドバックくんにヒットしたそれは10、10、10、10、10、10と数字を叩き出し、また回復した。


 更に咲は攻撃力、防御力、素早さ、回避能力、とほぼ全てのパラメーターが上昇する。この感覚に慣れておかないといざ本番と言う時に上手く立ち回れない、しかも本番は一回こっきりで失敗したら24時間待たなければ使えないのだ。


「これでこの戦闘中はずっとこのままなわけだ…」


 咲はこの状態の感覚に慣れておこうとブンブンと剣を振り回す。


「斬空剣! 斬空剣! 斬空剣!」


 ビビビッっと3回で18ヒットを叩き出し上機嫌の咲、これをずっと繰り返した。


「どれぐらい練習する?」


「ん~そうね~皆も待ってるかもしれないし…15分くらいかな」


「おっけいじゃあそれが終わったら」


「うん打倒イフリート戦……リベンジよ!!」


「おうそうだ、そのいきだ」


「って言うかまだスタンプラリーの1個目ですらないんだよね…スタンプ0個目のクエストでこの難易度ってどんだけ~……?」


「社長に言わせると「昔は難しいゲームが多かった、今は優し過ぎるゲームばかりだ」って嘆いてたぞ」


「ふ~ん……」


 咲は天高く思いっきり剣を突き上げ…振り下ろした。灼熱のような暑さの中、9人はイフリートの所までやって来た、またもや取ってつけたような会話から戦闘が始まる。うっぴーが自動でしゃべり出した。


「やいやい! 悪さをするイフリートめ! この暑さを何とかしろ! 仲間達がへばってしまっている! 貴様を倒して、この暑さを何とかする!!」


「よかろう…我を倒せたらこの場から出て行ってやろう」


 咲はこのとってつけたような戦闘理由に若干の苛立ちを覚えた。


「このとってつけたような戦闘台詞いる?」


 ブロードは早速戦闘態勢に入る。


「ごちゃごちゃ言うなフレアが来るぞ!」


 イフリート戦専用のBGMが流れ始めた、精霊の王を思わせる熱く、重く、爽やかで、踊るように、威厳のある。っと言う姫の要望を見事に表現している。その姫は高台に避難し、文字通り高みの見物と決め込んでいる。


「さあてどうなることやら…」


 イフリートは力を溜めている…。フレアはフレアをする動作がわかりやすく、またフレア後の硬直時間も長そうな印象だった、隙があるとすればフレアをする前の動作で準備して、フレア後の硬直時間で攻撃を叩き込むのが一番いいだろう。前回はイフリートが何をするかわからなかったが全員がほぼ即死する大ダメージ系のフレアをするとわかっているから早急に対策を立てた。


「レイシャ! 頼む!」


「うん! 怒涛の気合!」


 レイシャは〈怒涛の気合〉を発動させた、地面から蒼白いオーラが全身にいきわたり全員を覆い包む。


「フレア!」


 次の瞬間ドゴン!っとあたりは炎による大爆発を引き起こした、前衛も後衛も巻き込む全体攻撃は全てを燃やし尽くし生者を生かさない浄化の炎と化した。


 全員のHPがギュインギュインギュインと音を立てて一気に減った、とても勝ち目があるとは思えないであろう戦いの中全員は笑みをこぼしていた。15秒間はいくら攻撃を受けても必ずHPが1残ると言う技〈怒涛の気合〉フレアによる技の硬直時間から回復アイテムを使用する時間は十分にあった。


「皆! だんご食え!」


 全員はあらかじめセッチィングしていただんごをメニュー画面を開いて出現させた、全員が食べるのはHP60%回復する〈レモンだんご〉だんごが3つ串にささった美味しそうなだんごだ。少しギャグっぽく見えるかもしれないがゲームをしている本人たちはいたって真面目に食べている、決してシリアスなギャグではない。天上院姫はそこまでの状況を見て独り言のように解説を入れる。


「ふむ…全員の回避は無理と判断して最初は〈怒涛の気合〉で耐えたか、まあイフリートまで距離があったから背後に回るのは難しかったかもしれんが…私一人だったら高速で背後に回っておしまい…だったかな…なんとも集団戦は難儀で難しいな…」


 四重奏のリーダーであるブロードがリーダーシップを発揮させる。


「とにかく回復職はイフリートの後ろに居ろ!」


「は…はい」


 攻撃なんてそっちのけでレイシャはイフリートの後ろに回り込む、それを察して前に作戦会議で話したようにアレキサンダーがレイシャを護るように前衛に立ちついていく。


 リスクが速くイフリートとバトルしたいと思いながら軽くジャブを一回する、が、イフリートにはダメージは1しか食らわなかった。


「何だこりゃ? 全然効かねえ!」


 マリーが〈虫めがね〉を使う、これでイフリートのステータス画面がいつでも表示されるようになる。これが全員見えた。メインクエストボスイフリートHP499MP500と表示される、さっきリスクが一発攻撃して1減った事は容易に想像がつく、となるとHPは500。どれぐらい攻撃を与えれば〈タイムショック〉の効果が最大限生かされるかミュウは高速で暗算した。


「HPはざっと500か、〈タイムショック〉の効果があるからせめて250まで減らせ!」

 ブロードが「んな無茶な!」っと喚く。


「んなこと言ったってダメージ1しか食らわないんだぞ!」


 ミュウは猛烈に反論する。


「じゃあ250回殴れ! それぐらい出来るだろう!」


 咲は剣を構えながら言う。


「そうだよ、今までの一ヵ月は完璧に運任せだった、でも今回はそうじゃない、イケるよ!」


 アレキサンダーが女子達にカッコつけようと前にでる。


「ふふふ今こそカッコつける時!私の技を見て恐れおののけ! 必殺! 浄土天水焔斬風漆黒光翼万物賛へぶ!(じょうどてんすいほむらざんぷうしっこくこうよくばんぶつ)」


 技を全部言い終わる前にイフリートの攻撃を受けてしまったレイシャは「きゃー回復回復!」っと慌てふためいた。イフリートは力を溜めている…、フレアの前兆だ。ブロードはギャグのツッコミのごとくレイシャに言った。


「レイシャバカはほっといて怒涛の気合を頼む!」


「あ! うん! わかった!」


 再びフレアによる灼熱地獄により世界が浄土と化した、全員のHPがギュインギュインギュインと音を立てて一気に減ったが、再び全員だんごを食べる。ここはもう完全にパターンが完成している。ブロードが待ちきれんとばかりにイフリート目がけて走り出した。


「一気に決める! 行くぞ!」


 ブロードは秘奥義を発動させるための発動セリフを言うと同時にピキン!っとカットインが入る。


『本気行くぜ!』


 その時世界は静止しブロードだけが動ける世界が完成する。


『時空を切り裂く極光の剣を観よ!』


 両手で剣を持ち天高く持ち上げた時、光り輝く巨大な極光の剣が現れる。


『次元殲滅剣(じげんめっさつけん)!』


 極光の剣を振り下ろしイフリートに向かって大ダメージを与える!かに見えた、しかしダメージは10と実に微妙な数字を叩き出した、しかし次元殲滅剣(じげんめっさつけん)の効果はこれだけでは終わらない。敵の時が止まり5秒間硬直状態になる。ブロードは大きな声で言葉を発する。


「とにかく数だ! 攻撃しろ!」


 そういい言葉の意味を理解した全員は慌てて通常攻撃をした、9人全員攻撃で2回攻撃18ダメージ、イフリートのHP471、見た感じあまりHPは減っているようには見えない


。その時リスクは思い出した。


「あ!そうだうちも秘奥義しないと!」


「さっさとやれバカ!」


 っとツッコミを入れるスズ。


『荒れ狂う殺劇の宴……』


 そう発動キーを言い秘奥義モーションに入ったリスク。


『行くぞ! マトリックス! マトリックスリロード! マトリックスレボリューション!』

 目にも留まらぬ連続攻撃!しかし攻撃は全て1しか食らわず結局15ダメージしか食らわなかった。しかしリスクの目玉はここからが本番。


『これで眠れ! 決着のダウンバースト!!』


 イフリートを上空へ敵を突き上げて更にその上空から風の災害ダウンバーストをお見舞いする。発動に成功したら必ず決着がつく。


 ただし決着がつくかどうかは2分の1で相手のHPが0になるか自分のHPが0になるかは選べず運しだいとなる、運が良いとされるリスクだから出来る技。イフリートとリスクの間に静寂が訪れる、果たして最後に立っていられるのはどちらなのか…!?がくり! っとリスクの方が倒れた。


 ボスだから即死系が効かないのか?とは思うがしかしそれならリスクだけが即死になるのはおかしい、しっかりシステムはギャンブルはしたのだろう。では何が悪かったのか? リスクの運が悪かったのである。リスクは即死と言う名の瀕死状態になった。ちなみに瀕死になると体が倒れて動けなくなるのだが、チャットや会話は出来る。よく「助けてくれ!」や「ヘルプミー!」と言うのが一般的だ。


「死んだ~」


「死にながらしゃべるなバカ」


 リスクとスズの仲の良いコントはいつも通りである。イフリートの残りHPは456、ここまで来てHP50も減っていない、はっきり言って絶望的である。


「畳みかける!」


 間髪入れずにスズは秘奥義の姿勢に入った。

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