第73話 新たなる力




 いくつもの国の関所を越え、ラザーニ国へと馬車を返してから小型船ボートに乗り換え山越えで王都に帰還した。

 空の旅はキィクのお気に召したようだが、出撃する時はこの倍以上のスピードになると伝えると彼はげっそりとしつつも笑ってくれた。


 すっかり着陸場所となった王城の中庭では、チアキと剣星さまとへルートさんが出迎えてくれ、手を振っている。



「お帰りなさ~いセンパイっ」


「お帰りなさいタズマ君」


「五体満足のようでなによりじゃ」


「ただいま戻りました。あっ、こちら、新たに私たちの仲間になりましたキィク・ガーランド。地の属性魔法のスペシャリストですよ」


「はっ、ハジメマシテっ!」


「おお、一角鬼人ユニコン・オーガの美少…… 少年か。よろしくな」


「剣星さま! どうでしたか? 闘技神バルファロスはどんな技を導いてくれたのでしょうか」


「あー、うむ、それなんじゃが……」



 俺の問い掛けに、へルートさんは『にっこにこ』してるが、剣星さまは歯切れ悪く言いよどむ。

 これは一体、どうなったのだろう。

 詳しく話を聞くために、中庭からいつもの第三談話室へと場所を変える。



 そしてわかったのは、剣星さまに授けられた新たなるスキルは回数限定の範囲攻撃ではあったがとても範囲が狭く、今までのような対魔物の無双はできない、ということだった。



「しかもスキル制限としてへルートが組み込まれていてな…… 立ち回りから変えていかねばならん」


「いいじゃないですか、私はこの技、神様が剣星さまの無事をご所望の結果だと思いますよ」


「ご所望じゃなくて無言の命令縛りだよこれは」



 神様からの愛情とはいえ、望みが叶うばかりではないのだな……。

 授かったスキルは『鬼哭対鳴閃きこくついめいせん』というモノ。


 自分の前方に倍増した斬撃を射ち放つ技で、溜め時間を与えた分だけ威力はあがるが無差別の剣戟を放ってしまうことになるし、背中合わせにへルートさんが居なくては発動できないという縛りがある。



「ラブラブでいーんじゃないっすかねぇ」



 と、寂しい笑顔でお姫様チアキは吐き捨てる。

 感傷に浸りながらの溜め息をつく剣星さまは、とても暗い表情だ。



「射程も五十メートル程度じゃし…… これは剣斬天元けんざんてんげんとは比べ物にならん弱体化じゃよ」


「ま、まぁまぁ。お二人で出撃する分には全くもって頼もしいではないですか! ねぇ?」


「まぁなぁ。今まで潰していたスキルをまとめ、多対一で立ち回れるようにはしたがよ。家族を守りながらでないと十全じゅうぜんにならんとは…… しかも一日に五回だけじゃ使い途や使い処に困る」


「それでも、やり直しはしなかったのでしょう?」


「タズマ殿、最近は遠慮がなくなってきたのぅ」



 剣でビームを放つばかりが戦闘でもないし…… これからは俺も、マニルというアドバンテージもあるし、キィクと一緒に魔法を使っていこうと思う。


 なんてことを考えていると。



「ご主人様。私も、闘技神バルファロスに祈りを捧げたいのですが」


「ボクも」


「ウチもぉ」



 戦闘職のメンバーが、それぞれに緊張し上擦った声で願いを教えてくれた。

 そういえばみんなそれぞれの流派ではマスタークラスらしいもんな、今後のコトを考えたらスキルの整頓や新たなる技を授かりたいと思うのも当然だ。


 むしろ、そういうところに気を回せない俺がいけないんだよな。



「そうだよな…… じゃあ明日、みんなで行こうか」


「やったぁ」


「ふむ。肉体派女子をタズマ殿が連れて行くのは構わんが、ガーランド君はどうする? 王城などこちらの案内をしておこうか」


「あっ、僕はタズマと一緒に行動したいです…… 活動の基準とか、まだよくわかっていませんし」


「ふむ、そうか…… 仲良くなったようでよかった」



 剣星さまが純粋な笑顔を浮かべ、俺たちの肩を叩いた。

 まだいつもの闊達なドヤ顔には戻っていなかったが、心の整頓が出来たのかも知れない。




 ☆




 そして翌日、神殿ではなんと三人ともに神から技を授かってしまった。


 いや大事おおごとだよ?

 軍隊の将でも中々ない。

 天秤の天使という女性に導かれ、一人ずつ受け取った技は。


 シーヴァ 『称号 月詠牙ルーンナイト』―― 旋風斬+追転撃=『月刃ルナバール


 プチ 『称号 走破刃ラッシュメア』―― 双刃乱舞ソードダンス+連続刺突ピアッシリング=『鬼力解放斬舞ソウルフルダンス


 ユルギ 『称号 風追翼グライハンター』―― 落天爪衝撃カー・ド・マァン+両爪撃ダイブ・クラッチ=『斬舞臥撃爪メテオールダイバー


 それぞれに、称号まで神様から付与されていた。

 嬉しそうに溌剌と、三人の笑顔が眩しい。



「あるじ、やったよぉ、ホメて☆」


「ボクの称号、走破刃ラッシュメアってスゴイの?」


「私も、遂に、称号を得られました……!」


「うんうん。皆の表情が心地良いな。良かった!」


《ばっさばっさスリスリムギュムギュ》



 綺麗な瞳が輝き、笑顔が弾けていた。

 しかしシーヴァに抱き付かれプチにおんぶさせられユルギに頬擦りされているカオス。


 ホント『神との邂逅』を果たした皆を誉めてやりたい。

 姿を直接見たりは出来なかったらしいけれど『邂逅』自体スゴイ名誉で奇跡なんだ。


 ぺこっと近付いてきた天使さまにお辞儀して、感謝を伝えた。



「ありがとうございました。みんなに新たな力を与えてくださって」


【それは主の神業みわざ。私のモノではないわ。そして主からあなたへお言葉があります】



 瞬間、朝の神殿内部にどよめきが走る……闘技神バルファロスからの『神託』!?



「えっ、えっと、天使さま、私は武技のかけら程度しか学んでおりませんが……」


技量の天秤ニバルユニオの口を通じて、タズマ・コトゥラ・ステンラルへと語ります…… 『闇に紛れたモノは最初の傷痕きずあとに潜む』とのこと】


「最初の、傷痕、ですか?」


「闇に紛れた……?」


「バルちゃん遠回しばっかだねぇ」


「ばっ…… ユルギ、そんな言い方ダメだよっ」


【あぁ、その者の言葉はゆるされている。好きに呼ばせてやればよい】



 ……ユルギ、邂逅の最中に何をしたんだ……。


 後で話を聞いておかないと。



闘技神バルファロスの天使技量の天秤ニバルユニオが、あと一つ伝えたいのだが】


「は、はいっ何でしょう」



 ずいっと、天使さまに近寄られてドキッとしたが、耳打ちされた言葉は意外で。

 俺たちの全てを察したかのような表情が印象的だった。



【そろそろ本命は決まりましたか?】


「……!」



 すいません、まだです、はい……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る