第13話 チートの正体とこれからのこと




 あ~、焦った。


 その場を誤魔化し、しかし、魔法を習っていく過程でが起きたのはその時のみ。


 しかも条件を絞り込むために屋敷で試してみたら、対象がの時が圧倒的に多かった。


 どんなスケベ野郎なんだよ……。


 でもそれが、起きない場合もある。

 例えば先生を対象に探索や鑑定魔法を掛けても何も起きないし、お母様やマリーア相手でも起きたことがない。


 確実に起きるのはシーヴァと、プチ。


 鉄の武器や青銅製の防具を透過して身体のラインが見えてしまうのは、子供の俺には毒に過ぎる。



「ホントに、大切な部分とかが見える仕様じゃなくて良かったけどさ。いやいや、そもそもこの能力一体なんだよ」


「ご主人様?」


「っう、はいっ」



 後ろからかかったシーヴァの声に、背を伸ばして返事をしてしまった。

 小さく笑うと、彼女は大きなトレイにお茶を用意してきてくれたらしく、中庭の中央の東屋に広げていった。



「魔法の訓練はいかがですか? お嬢様は運が良ければ氷の矢の形になるくらいとおっしゃっておりましたが」


「う、ん。まぁまぁかな。先生の教え方が上手いから、初級の魔法なら、何とかなりそう」


「それは喜ばしいですわ。中級魔法使いと認められれば、領地の確立も夢ではありませんもの」



 一定周期に発生する魔物の襲来に備えて、魔法使いの育成は国家事業レベルなのだそうで。

 侵攻を食い止める騎士と、殲滅する武力としての魔法使い、という構図だ。


 だからこそ、高位の魔法使いともなれば国から『領土』を与えられ、そこにいることを求められ、他の国へと移動されないように恩恵や親族の結びつきで留められる。


 それで生活できるのだと思えば、いい身分なのかもだけれど。

 まだ魔物と対峙したことがない俺には、そこら辺は分かりようもない。



「シーヴァ、あのさ。キミは転生して、何か特別な力とか持っていたりする?」



 それよりも、今は自分に起きている謎を解明したい。

 だから、近い立場の彼女のことを聞きたかった。


 だが、この世界の常識はそれが『致命的』な告白だということも教えていた。

 才能や技術は、敵対する相手には知られてはならない事柄なのだから。



「はい。私は視界に様々な感覚を混ぜて知る『共感覚』というスキルをもっております」



 だけど、俺のことを信頼してくれている彼女は即答してしまう。

 甘えてしまってるな、ごめん。

 でも、本当に助かる。


 だから、シーヴァやプチには、隠し事はなしにしようと決めた。



「そうか…… あのな、シーヴァ。俺、魔法を学んでいる最中に、ある『異常』に気づいてさ……」



 そして、今までのそれを包み隠さず伝えたのだった。



「ご主人様、エッチです……」


「ご、ごめんよ。でも違うんだよ。見たくて見たわけじゃないんだから。初めての姉さんの時だって、確かめるためにシーヴァとプチを見たときだって…… すぐに消したんだからね?」



 あわてて弁明しても、説得力はない。

 そりゃあ、いつでも服が透けて見えてしまうかもなんてヒドイ話。

 身体を隠すように身を引かれるのも当たり前だ。


 こんな魔法の効果は聞いたことがない、という意見ももらったけど、ホントになんなんだろうか。



「ふふふ、冗談です。私は見られてもいいのですよ。ですが、あの、その効果は探知系統で『見る』だけなのですか? その状態は、攻撃や補助の威力などに変化を与えるスキルの副産物なのかも知れません」


「あ、なるほど…… 補助的な魔法か…… あるかもな」


「やってみましょうか。ご主人様さえ良ければですが、狩りにご一緒していただいて、実験していただくとか。最近、北の方から熊がはぐれているらしいので」



 何かワクワクした顔をしてるけど、狩りに行くのは騎士団と村の狩人の仕事で…… あ、これ俺と二人で出掛けたい衝動だな。

 散歩をねだる姿がダブって見えた。



「武器威力付与なら、実戦じゃなくても分かるよ? それに雪山の中を歩くのは危ない」


「浮遊飛行の魔法が使えるのでは」


「まだ今は練習中。先生の補助がないとムリ」



 しがみついてる姿はあんまり見られたモノじゃない。

 先生の身体が、セクシーだというのも問題だろう。



「コントロールについては、自身の訓練課題だよ。あっ、でも『アレ』を発動していると、えと、ボディーラインが見えるんだよね。シーヴァ、その、いいの?」


「ええ。仕方ないですし平気です。ご主人様になら……」



 さすが忠犬、その献身に泣きそう。



「ありがとうシーヴァ。散歩に行くときは一緒に行こうな」


「はっ、はいッ! では、こちらの木刀をお借りします」



 壁際に配置された、木製の人形に対峙するシーヴァ。

 最初は魔法をかけずに一撃入れてもらう。



「ッシィッ!」



 しなやかな筋肉の運動が、木刀を運び、木人を叩いた。


 時間が一瞬止まったような感覚に襲われる。



《バチィン!!》



「うぉっ」


「ふむ。いい木材ですねぇ。もうちょっと力を籠めても良かったみたいですが、ご主人様の魔法を確かめるのが目的ならこれでいけますね」


「お、おお、安定した同じ攻撃でよろしく……」



 魔法の話を忘れてしまうスピードの攻撃だった。

 シーヴァが俺たち兄弟相手に訓練してくれることもあるけど、結構な手加減されていたのだと知ったよ。


 今の、どうやったって躱せない。



「次は、付与魔法の『硬化』をかけるよ。同じ攻撃して、感想を聞かせて」


「はいっ」



 そして、白い光がシーヴァを包み、同じ動作で木人を打ち据える。

 快音がまた庭に響いた。


 同じ部分に当たった打撃で、凹みが見える。

 魔法での威力向上はちゃんとできるようだ。



「じゃあ、アレと併せて魔法をかけるよ。なるべく、あの、姿は見ないから」


「ええ。よろしくお願いいたします」


「探知…… っ、と、付与『硬化』っ」



 構えた木刀に、先ほどとはちがう『銀の光』がまとわりつく。

 その光はシーヴァの髪の毛と似ていて、美しかった。


 ただ、この瞬間には恐ろしい。



《ブァッ》



 光が腕を伝い、身体に広がり、シーヴァの全身を覆った時、攻撃は終わっていた。



《バドンッ!!》


「うぅわっ」



 我が目を疑う惨状が、そこにあった。



「ご、ご主人様、木刀で、木人が、……」



 普通、そんなことは起きない。

 スキルを使ってとかならあるかもだけれど、魔法の付与だけで木刀が真剣に勝る威力になるなんて。



「こんなの、滅多にお目にかかれないです。タズマ様は付与魔法の才能があるのですね」



 俺もこの現実にはうなずくしかない。

 良く見たら、壁にまで傷が入っていた。



「おーい、どうした~!?」


「あ、みんな集まって来ちゃったな…… シーヴァ、今のはそっちの大剣を使っていたと説明するからね。当分、俺のスキルについてはナイショだ」


「は、はい、うふ、ふふ、二人だけの、秘密ッ! きゃーっ、二人だけのっ!」


「ああ、プチが分かるならこのことはプチにまでは話してもいいけど?」


「いやです」



 とてもはしゃいでいるので、それ以上は彼女に指示をしなかったけど…… 予想通り、木人の方は不問だったが壁の補修はお小遣いから差し引かれることになった。



「中々の不幸だ……」



 シーヴァが給金から払うと言ったが断った。

 この惨状は俺の探求心から起きたのは間違いないから。



「よし決めた。自分のステータスが分かる『魔眼』の魔法を学ぼう。たしか先生が持っていたはず。いくらかかるか分からないけど……」



 確かめる度に何かしらの被害が出るよりはいい。



 そして、鍛えてその成果が出るのを見て、考えるようになった。


 魔法の特訓を楽しみつつ、剣士の訓練もやりながら、俺は生きていく目標を模索していた。



 『自分らしさとは、なんだろうか』



 俺は、元日本人にしては食事にこだわりがないし。


 何かに拘っていたかと言うと、フトアゴヒゲトカゲのブリーダーをしていたので交配とか育成とか…… これは『蒐集』というレベルでもないし、若干らしさとは言えないような気がする。



 今はとにかく魔眼の習得に専念するしかないか、な。

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