第8話 冬の襲撃を撃退する微睡みの虎娘
開拓開始から一年が過ぎて。
湖沼地帯で動向を静観していた『
そして周囲には間を開けて、元々の種族の棲息域を優先しつつ『
それぞれの集落の中心には、男爵からの出資を元に住居が造られる。
この建設については道路建設とは別に作業員を募り、多くの亜人種族が参加して自分たちの新たな里を作る作業に没頭していた。
それまで交流のなかった人類の大工や左官職人が、それぞれの住居や治水や通路に気配り、協力して構築していく様子に『お父様が泣いた』ので俺もちょっとうるっとした。
人との交流が多い『
中でも、開拓や道路建設に尽力した亜人種族には、子爵予定のアレヤ男爵の権限において『勲爵』を授けられる予定。
亜人たちにしてみれば爵位になど興味はなかったが、アレヤ男爵からもらえる、というネームバリューで欲しがるモノは多かった。
特に商業においては爵位を持つモノの方が有利だと考える者が多く、商人の多い兎人と熊人にはこぞって目立とうとする動きもあり、その発表後は恩の押し売りが悪目立ちしていたそう。
そんな人々の思惑が絡み合う日々も、この大雪でしばらくは止まるのだろう。
「やっと、一段落だ。ネオモやマリーア、それにタズマ、シーヴァさんにも休みを与えないとな」
お父様がそう思うのも、自分が疲れているからだろうか。
目に見えて痩せていたので、本当にゆっくり休んでほしい。
そんな、初雪の後。
街道沿いで、盗賊が現れるという一報があった。
周辺警備は『辺境防衛騎士』のボレキ準男爵の仕事だ。
しかし配下の騎兵を従えて巡回するも、近隣の街道で商人が襲われるのは変わらず、被害報告ばかりがふえていた。
三日後、巡視の兵士の手を割いて街道沿いを巡回したところ、一番南の村が襲われたとの報告が
盗賊団は、一人の亜人の少女によって倒されたのだと言う。
「この人数を、たった一人でか」
「まるで魔法か、舞踏のようでした」
「ほぉ、魔法かあ。見てみたかったな」
ボレキ準男爵が戻って来たとき、十人以上の大男たちが捕縛され武器を奪われていた。
すぐ隣の道具屋にそれを売り払い、少女は去ってしまったという。
名前も告げない、
ボレキ準男爵は住民が縛り付けた縄を引き、大きな檻のある港町へと急ぐため、報告は部下に任せアレヤ男爵へと早馬を送った。
が、その早馬を追いかけていく小さな子供が、報告すべき『虎娘』だとは誰も気付けないまま、男爵家へとその女の子は到達し、俺と対面したのだった。
☆
たぶん、この辺り。
いいかげん寒いし、アイツ自分から出てきてくんないかな。
お肉とお魚食べ歩いて、海沿いの街道をずうっと歩いてきたのに、お金がなくなるし、もうめんどくさくなった。
あーあ。
暖かい毛布は持ってきたけど、歩きながら『くるまる』のは好きじゃない。
暖かくて手足が伸ばせるくらいの場所で、けど丸まってくるまるのがいい。
だから毛布はとっておき。
もう小銭しかないけど、パンを買ったらもう少しだけ探してあげよう。
昼食を村の真ん中くらいにある食堂の片隅で食べはじめたら…… 奴らがそこへ現れて。
昼食のメニューを楽しんでいた何だかむさ苦しい男たちをもっとむさ苦しい男たちが刃物で脅して、テーブルの上の黒パンと塩スープと焼き魚を
そして、そのお椀がボクの荷物にぶつかって、見事なくらいに汚してしまった。
振る舞い、仕草でそいつらが『ワルモノ』だって分かっていたけど、ボクには関係なかったから隠れるつもりだったのに、気が変わったよ。
住民を襲いかけていた男たちを、全員ぶっ倒した。
開墾地でのバイトよりは楽な仕事だった。
「ありがとう、助かりました!」
「ねえねえお姉さん、ボク、コイツらの武器を売り払いたいんだけど、何処なら買ってくれるかな」
「えっ、そこの道具屋になら、たぶん……」
この村でも、犯罪者からの掠奪はダイジョブでよかった。
せいおーこくとかいう変な臭いの場所はこれがダメ、あれがダメの連続で、息が詰まりそうだったから料理も楽しめなかった。
「お嬢さん、強いね…… その武器は買うけど、そいつらを突き出した方がお金になると思うよ」
「目的地が他にあるから、こんなヤツラに関わってる時間がもったいない。あ、そこの暖かそうな毛布は買う。こっちは売る」
「お、おお、比べるとうちのは格安のペラペラだけど?」
「ちゃんと干してある匂いで分かる。ちょうだい」
犯罪者たちのその後は、その道具屋に任せてボクはアイツの棲みかをまた探すんだ。
「毛布はタダでいいよ。持っていきな。お嬢さんは男爵家のタズマ様のメイドの狼娘と、どっちが強いのかね」
自分の心臓が跳ねる音にビックリした。
いきなりアイツの名前をここで聞けるとは。
「その子供、どこ?」
「うひいいいっ、ちょ、剣を構えないでくれっ」
「その、タズマに会いたいの」
「ダメだお嬢さん、男爵家の坊っちゃんに、そんな物腰じゃ会えないよ」
「あ、そうかなるほど、うん。気を付ける」
そこまで聞いて、思い出した。
あの『夢見』で聞いた、アイツの今。
偉くなっていたんだ。
そして、たぶん、あの犬が居る。
あのうるさい犬が。
死ぬ時まで、アイツを悲しませて。
だから、ボクはアイツに元気な姿だけを見せてた。
うん、ボクえらい。
「ふうぅ。お嬢さんは従士を目指しているのか。その腕前なら騎士にまでなれるかもなぁ。数千人に一人と言われるボレキ準男爵のような出世もあるかも」
「ん、なかなか見付からなかったから嬉しい」
道具屋は何か勘違いしているけど、とりあえず今は
「今に騎士たちが来て、犯罪者たちを連行するだろうよ。男爵家へと早馬を出すかも知れないが、その時に頼んで見たらどうだい」
「騎士、早馬、ふんふん。分かった」
つまり騎士たちの中から飛び出すヤツについてけばいいんだ。
簡単。
この道具屋のオッサンいいやつだな。
汚れちゃったけど、他の荷物も置いていこう。
(不法投棄)
武器を売った代金をもらって、買い物して村を出て、少しだけ離れた
お腹を満たすために新たにパンと揚げた小魚を紙袋いっぱいに買ったから、騎士とかが来るまでのんびり待てる。
美味しかった。
この村、すき。
……来ない。
暇なので寝る。
……来ない。
もうちょっと寝る。
「ッ!」
馬の足音がボクの耳に届いた。
騎馬兵は元からウルサイけど、この身体を得てからは自分なりに体力作りや武芸の訓練に励んできたからとても遠くてもすぐ分かった。
様子を見守って、騎馬が一つ離れていくのが見えた瞬間、飛び降り走り出す。
スピードを抑えていれば、馬と並んで走るのも程々にはできる。
本当にボクえらい。
やっとアイツに逢えるのだと、心躍らせながらも視線は馬の尾を追っていった。
「まずは、暖かい『コタツ』用意してもらわなきゃ。そして暖炉、カリカリ、カツブシ、そしてなんといっても『ちゅーるる』よね」
うん、夢が広がる。
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