片脚の探偵〜Wizard of One leg〜刻まれた三日月の境涯
満梛 平太郎
依頼
1
俺の名前は
なぜ片脚のウィザード?って?
別に俺は魔法使いじゃない、ただの探偵さ。
異名の由来は単純で、俺の右脚の太腿から下の足が無いのと、未だに女の肉体からだを知らないからさ。
脚はともかくとして、37歳にもなって女を抱いた経験がないってことが、そいつらには理解出来ないらしいんだ。
まぁいい、俺のことは俺が一番知っている、そんな連中はほっとおけばいいさ。
ほら見ろ、そうこうしてる内に扉を開けて、仕事の依頼が舞い込んできたぜ。
「あ、あの、吼鸞さん…ですか?」
気の弱そうな若い女が、見た目通りの、か細い声で俺に尋ねてきた。
「ああ、そうさ、俺が吼鸞だよ、仕事の依頼かい?」
「はい、そうなのです、ワンサール探偵事務所のことを闇サイトで見つけてそれでここにこうして…私…来たのですけど…」
女は背中に影を抱え、濁った瞳で俺の方を見た。
「そうか、それはいい最近は表のサイトの依頼しか来ないんでね、少しばかり生活が苦しくて困っていたところなのさ」
俺は報酬のいい闇サイト経由の依頼に意気揚々とした、すぐさま女を年季の入った応接テーブルに案内すると、焦茶色した一人掛けの革ソファに座らせ話しを聞いたんだ。
「では、始めようか、名前は偽名でもいいが、言わない場合はこちらで呼び名は決めるけど、それでいいかい?」
「いえ、大丈夫です。名乗ります、私はルミナといいます」
「わかった、ルミナさんだね」
俺はそう言ってルミナの顔を見つめた、が、彼女とは目が合わなかった…コミュ障か?まぁいいさ。
「それじゃあ、ルミナさん、ここからが本題だ、まずは闇サイトで登録したパスワードをここに打ち込んでくれるかい?」
「はい、わかりました」
ルミナはすらすらとタブレットにパスワードを打ち込んだ、俺は彼女が下を向いた時、首の後ろに三日月のタトゥーがあるのを見つけた、その瞬間、クソっ!またか!そう思ったが、まぁいい、ひとまず依頼の確認だ。
「よし、認証完了だ、依頼主に間違いないね、次に依頼内容の確認と報酬についてだ、登録してくれた内容だと…人探し、そして救出とあるが間違いないかい?」
「はい、間違いありません」
「うん、では報酬だが、依頼を達成した場合10億TaishiCoinを一括で支払うとあるが間違いないかい?」
「はい、間違いありません、足りませんか?」
「いや大丈夫さ今のところはね、しかしこれとは別に実際の調査に掛かる諸々の費用はその都度計算して請求する、それは報酬金とは別に前金で支払ってもらうがいいかい?」
「わかりました…」
「あ、それと申し訳ないがうちは報酬は現金のみの受付なんだ、問題ないかい?」
「ええ、なんとかします」
俺は10億TaishiCoinと聞いて悪くない依頼だと思った、現金に換算すれば今のレートで約4〜5億円だ、久々のビッグビジネスに俺の心が躍っているのがわかる。
しかし、まずは依頼の確認だ、仕事はきっちりやるもんだぜ。
「よし、では人探しについてだ、誰を探せばいいのか教えてくれ」
「はい、探して欲しいのは私の兄です」
「お兄さんね、写真や名前、手掛かりになるような物があれば見せて欲しい、いいかい?」
「はい、こちらに全て纏めておきましたので御覧ください」
「おお、これは見やすそうだ、拝見するよ」
俺はやけに綺麗にファイリングされた資料をペラペラとめくった、其処には、ルミナの兄の写真や学歴、職歴、恋人、交友関係など細部に至るまで調べ上げ纏めらていた、これは明らかにルミナ以外の誰か…諜報に詳しい者が調べたものに違いなかった。
俺はこの資料に何かを感知して、自然と尋ねたんだ。
「ところでルミナさん、この資料についてなんだが一体誰が作ったものか教えてくれるかい?」
「はい…これは半年程前に依頼した探偵が纏めた資料です」
「探偵か…その探偵…
「は、はいっ、何故?知っているのですか?」
ルミナは動揺して目を大きく見開いた、今まで下を向いていたので気付かなったが、ルミナは俺好みの狸顔だ、しかしな、邪な気持ちは仕事にはご法度だぜ。
「なぁに、三角とは元同僚ってだけさ」
「そうでしたか、世間は狭いのですね…三角さんは兄について何か手掛かりを見つけたという連絡を最後に、消息は途絶えたままで、事務所に伺ってもシャッターが閉まっていて人気を感じませんし、もうどうにもこうにもできずで...」
「それで俺に依頼をしてきたってわけか、まあ、高額な報酬の上、探偵は消えちまうし、よく見ればお兄さんは有名な物理学者で宇宙開発に関わる研究をしていたとある、しかも若くしてノーベル賞候補に上がる程の天才で失踪の直前までイスラエルの大学で講義をしていた…か、こんなきな臭い怪しげな依頼を受ける奴はそういないだろうな」
謎めいた依頼に胸は昂ったが、俺は冷静さ、とはいえ、場の空気を落ち着かせるためにゆっくりとコーヒーを挿れた。
ルミナにも「どうぞ」と言ってコーヒーを差し出す、彼女は砂糖とミルクを入れて一口飲むと、窓から少し覗く青空を眺めた、それがまた綺麗な横顔なんだ。
それはそれとして、言っておくが俺はブラックしか飲まないぜ。
そして少し間が空いてからルミナが口を開いたんだ。
「吼鸞さん、兄は生きているのでしょうか?」
「どうだろうなぁ、それは俺にも分からない、でも生きていて欲しんだろう?」
「はい、生きていて欲しいです」
「だよな、だったらそう願っていればいいんじゃないか、難しくないだろう?」
ルミナは吹っ切れたように頷いた。
「ですね、それしかできない、きっと生きている、だから吼鸞さん兄のこと必ず見つけ出して下さい!」
「ああ、当然さ、出来ない仕事は受けないないタチなんでね」
そう言って俺とルミナは握手を交わした、ルミナの手は俺の水分を吸収する様な質感だ、手でこれだ、肌なんかもっと張り付くに決まってる、クソっどうなってやがるんだ今日は、まぁいい、仕事が始まるぜ。
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