もしも勇者がマジのクズだったら

茶介きなこ

第1話

「勇者よ、魔王を討伐してもらえないだろうか」


 宝石のあしらわれた金の椅子。

 そこに座っているのは、とてつもない威厳を放っている人物だった。

 下で膝をついている者を鋭い眼差しで見つめ、腕を組んでいる。


「あ、あのぅ……」

「どうした、勇者よ」

「私は勇者ではないし、むしろお前が勇者なのだが……」


 、「けっ」とつまらなそうな顔をした。


「なら、なんで王様は俺に跪いてんだ? えぇ? お前が王様だって証拠あんのかよ?」

「いや、この冠を見ればわかるだろう。これは代々受け継がれてきた神器。これこそが、この国の統治者たる証なのだ」

「あ、そう。じゃあそれ貰うわ」


 勇者はブツブツと呪文を唱えると、一瞬にして冠を手元に引き寄せた。


「うっわ、なんか油でベトベトしてんだけど。ちゃんと洗えよ、オッサン」

「オッサン」

「なんだよ、永遠の18歳とか言うんじゃねぇだろうな」

「……」


 王様とて、今は勇者にお願いする立場。腹は立っても、下手に出るしかない。

 さっきまで椅子に座っていたのは王様だったのだが、瞬間移動の魔法で立ち位置を入れ替えられてしまっている。それに加えて冠まで奪われてしまった。

 傍から見れば──なるほど、確かにただのオッサンが跪いているようにしか見えない。


「頼む、勇者よ。私では魔王を倒すことなどできない。これがお前の使命なのだ」

「はっ、それが人に物を頼む態度ねぇ」


 王冠を人差し指でクルクル回しながら、勇者が答える。


「す、すみません……どうか、お願いします。勇者さまっ……」


 王様は完全に心が折れていた。ガクッと両膝をついて、最後に額を地面すれすれまで近づける。

 近くで槍を持って列をなしていた兵隊たちは、王様の土下座を直視できずに目を逸らし始めた。


「クックック、いい気味だぜ。んじゃ、ちゃちゃっと魔王倒してくっかな」

「ありがとうございます、勇者さま……」


 足音を鳴らしながら、一歩ずつ王様に近づいていく勇者。

 許しが出ていないので、まだ顔を上げられない王様。


「あ、そうだ。俺が魔王倒すまでに、この城売っといてね。報酬金として、王様の有り金は全部もらうから」

「な、なんと! そ、それは勘弁していただきたい……!」

「嫌なら自分で魔王倒せば?」

「……」


 王様は何も喋れなくなってしまった!

 王様は、「寡黙なる王」の称号を手に入れた!


「それと、この城に伝説の宝剣があるんでしょ? それも貰うわ」

「……」


 王様は喋れないまま、玉座の後ろに飾ってあった宝剣を持って来て、勇者に渡す。


「あざすあざす、宝剣あざす」

「……」


 勇者は無言の王様に別れを告げ、城を後にした。


 その後、勇者がやってきたのは下町の酒場。

 これは勇者の持論だが、酒場は酒を飲むためにあるのであって、仲間を集めるために行く場所ではない。従って、勇者は真っ昼間から酒を飲むためにここへ来たのだった。


「いらっしゃいませ──って、勇者さま!? 勇者さまのご来店です!」


 看板娘が、驚き半分と嬉しさ半分のこもった声で叫んだ。

 それに反応して、店内にいる人々はどよめき始める。


「おお、あれが勇者か……」

「きゃー、かっこいー!」

「ふははは! なかなか腕が立ちそうなやつじゃねぇか!」


 反応は人それぞれ。

 しかし、この場にいる者の注目を一身に受けているのは勇者で間違いなかった。


「あ、君が噂の看板娘か。へぇ、可愛いじゃん」


 勇者は看板娘のおっぱいを揉んだ。

 もみもみ。


「ひゃっ!?」


 看板娘は突然の出来事で頭が追いつかずに目を回し、持っていたビールジョッキを落としてしまった!

 看板娘は、「ドジっ子」の称号を手に入れた!


「あーあ、ズボンにビールがかかっちゃった」


 勇者はそう呟いたが、実際はかかっていない。

 勇者は、そういうヤツなのである。


「も、申し訳ございません! 今すぐ拭くものをお持ちいたします」

「いい、いらないよ。大丈夫」

「勇者さま……優しいお方なんですね」


 看板娘は恍惚とした表情で勇者の顔を見つめる。

 これが勇者補正。特にいい奴でもないのに、なぜか周りの異性からすぐに好かれるのだ。

 チョロいな、と言いかけて、勇者は言葉を飲み込む。


「じゃあさ、代わりに今日の夜、予定空けといてよ」

「……! それって……」


 看板娘の顔がみるみるうちに赤くなる。

 看板娘は小さく頷くと、顔を手で覆ってカウンターの奥へ走り去ってしまった。


 勇者の口説きスキルのレベルがカンストした!

 すでにMAXだったのである!


 それから勇者はいつも通り、「ここからここまで全部くれ」と注文をし、店内全ての酒を頼んだ。

 それらに一通り口をつけると「会計は王様のツケで」と言い残してその場を立ち去った。

 これから全財産を失う王様はどうやって支払うのだろうか?


 次に勇者が向かったのは、魔王城──の、魔王の玉座の真後ろ。

 瞬間移動である。


「むっ?」


 気配に気づいた魔王が振り向こうとしたところで、勇者は宝剣を振りかざした。


 ズバッ。魔王を玉座ごと一刀両断。


 魔王を倒した!

 奇襲のスキルがカンストした!

 すでにMAXだったのだ!


「ふー、疲れたわー」


 勇者がそう言った時、目の前に文字列が浮かび上がってきた。



『もしも勇者がマジのクズだったら STAFF


         著者 茶介きなこ

       プロット 茶介きなこ

 キャラクターデザイン 茶介きなこ

         監督 茶介きなこ

           │

           │

           │       』



「は? うざ。作ったやつのことなんか知ったこっちゃねぇよ。スタートボタンでスキップ、っと」

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もしも勇者がマジのクズだったら 茶介きなこ @chacha-chasuke_kinako

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