第27話 お泊り(後編)

 家族で百合を囲んでの和やかな夕食の後。

 先に風呂に入った俺は着替えて寛いでいた。

 部屋の中は寒くもなく暑くもなくて。

 いい夜だなと思う。


 ただ、一つ気がかりな事は百合の事だ。

 なんかパジャマがどうとか聞いてきたけど。

 猛烈に不安だ。


「修ちゃーん、いいお湯だったよ」


 少しまだ湿った髪と上気した肌が色っぽい。

 しかし-


「えーと。そのパジャマは?」


 ワンピース型で桃色の色っぽい奴。

 どう見ても普段百合が使う寝間着じゃない。


「修ちゃん。そこまで鈍感だった?」


 つまり、その意味するところは。


「お泊りのために気合を入れて来たと?」


 俺は前に水玉模様の普通のパジャマをリクエストしたはず。

 なんでそんな「彼氏とお泊りします」なパジャマを。


「それはもう。ムラムラ来てくれた方が嬉しいし?」


 ニッコリと何の照れもなく言い放つ百合。

 その様はとてつもなく色っぽくて可愛らしくて。


「俺の理性が色々限界になりそうなんだけどな」


 夕方もだけど今日は特別押しが強い。

 いや、嬉しいんだけど、まだ夜は長いというか。


「だから、我慢してくれない方が嬉しいんだけど?」


 いや、もちろん拒む理由はないんだけど。

 でも、受け入れてくれるから少し怖い。


「だってさ。こう、身体だけの付き合いとかなったら嫌だろ」


 そう。結局はそれが一番大きかった。

 もちろん、百合の全てが好きだという自信はある。

 ただ、もうちょっとバランスを取りたいのだ。


「修ちゃんは心配し過ぎ!」


 何のためらいもなく断言する百合。しかし。


「お前が奔放だから、俺が抑え気味なくらいでいいだろ?」


 もう自分がズブズブに百合を好きになっているのはわかっている。


「あと、正直に言うけど。夕方したばっかりなのに、二度は無理」


 そんなに精力絶倫男子ではないのだ。

 元々、超草食系なんて言われてたくらいだし。


「修ちゃんは頑固なんだから」


 ぷくーと不満そうな顔をしてみる百合だけど、わかってくれたらしい。


「あ、でもだな」


 近づいてぎゅうっと抱きしめる。

 俺の気持ちがこいつに伝わるように。


「こうするのはいつでも大丈夫だからな?」


 ドクン、ドクン、と自分の心臓が脈打つのが感じられる。

 同時に、百合のも。


「もう。嬉しいことしてくれちゃって」


 少しぼんやりとした声で百合からも抱きしめられる。

 チュ、っと首筋に冷たい感触。


「ちょ、お前何をする」

「前に修ちゃんが意地悪したでしょ。お返し」

「それは確かに首筋をいじめたことはあったけど」


 首筋のあちこちにキスをされてぞわぞわする。

 しかも、舌まで這わせられて……。

 くすぐったいやら、続けてると何か妙なものに目覚めそうやら。


「ちょ、タンマ」


 慌てて百合を引き剥がす。


「前に私が言っても聞いてくれなかったよね?」


 駄目だ。根に持ってる。

 

「いや。悪かったから。謝る」


 というか、くすぐったいのが強すぎるのだ。


「修ちゃんも新しい感覚に目覚めよう?」


 再び抱きついて来て、首筋にキスをされる。

 このくすぐったいようなゾワゾワするような感覚。

 

「悪かったから。新しい感覚に目覚めるのはまた今度な?」


 力を入れて今度こそ引き剥がす。


「仕方ないね。今日はこれくらいにしておいてあげる♪」


 もはや小悪魔めいた笑みになっている。


「お前さ。最近、色々勉強し過ぎだろ。アレな意味で」


 これにしたって百合が考え出したとは思えない。


「恋人同士のマンネリ解消にはよくない?」


 もう糠に釘。暖簾に腕押しだ。

 

「別にマンネリになるようなことはなかっただろ」


 まあ、百合にしてみればそういうのは問題じゃないんだろう。


「せっかく恋人同士なんだから、新しい事にもっとチャレンジ!」


 そう言うと思った。


「じゃあ、またチャレンジは別の機会として。ゲームでもしようぜ」


 逃げてみる。


「もちろん、ゲームは好きだけど。普段も出来るよね?」


 もう逃す気はないらしい。


「じゃあさ、間を取ってこういうのはどうだ?」


 ベッドの上に誘って、俺が抱きしめる体勢。

 百合がお気に入りの奴だ。


「う。修ちゃん。ずるい」


 予想通り、うまくハマった。


「百合も満足。俺も満足。Win-Winだろ?」


 しかし、百合のやつも不思議というか。

 堂々と誘ってくる割にこの体勢を妙に恥ずかしがる。


「この体勢に持ち込まれた時点で私の負けだね」


 首筋が何やらほんのりと赤く染まっている。

 それを見て少し悪いことを思いついてしまった。


 チュ、と首筋にキスをしてみる。


「!」


 予想通りビクンと身体が跳ねた。


「ちょ、ちょっと。修ちゃん……」


 身を捩って逃れようとするけど、構うものか。

 何度も何度も首筋にキスをしてみる。


「う。さっきの。仕返し?」


 何やら腕の中で身悶えしながら可愛い返事。


「嫌ならやめてもいいが?」


 もうとことんイジメると決めた。


「嫌じゃない。でも、修ちゃんのせいだよ?」


 実は以前に試してみたことがあったのだ。

 女性は首筋が弱いことがあるらしいけど、百合はどうなのかと。

 

「じゃあ、続けるぞ?」


 普段、奔放な百合がなすがまま。

 こういうのが楽しいのは、少しサドっ気があるんだろうか?


「今度、絶対仕返しするからね?わひゃ」


 というわけで、一時間以上そんなことを続けたのだった。


◇◇◇◇


「修ちゃんは時々すっごく意地悪になるよね……」


 二人のイチャイチャを終えて、今はゲームの時間だ。

 何も考えずに楽しめるということで、モンハンでの協力プレイ。

 お互い好き勝手に狩りをして、時には協力をする。

 そして、今は巨大モンスターを前に共闘中だ。


「それ言うなら百合もお互い様だろ」


 百合は双剣でサクサクと斬りつけるのが好きで。

 俺は斧を使って大振りな攻撃で敵を倒すのが好きだ。


 モンスターの隙が大きい時は俺が斧を振り回す。

 逆に隙が少なめの場合、百合が双剣でヒット&アウェイ。


 そんな協力プレイにも慣れたものだ。


「しっかし。もう素材集めとかどうでもよくなってるな」


 二人とも素材は有り余っている程。

 だから、狩りでモンスターが落としたアイテムも無視。

 狩りというか、協力してモンスターを倒すのが楽しい。

 そんな感じの楽しみ方だ。


「ぼーっとするのには、モンハンはいいよね」


 いや、他のプレイヤーさんがどうかは知らないけど。

 漫然と敵を倒し続けてると不思議と会話が弾む。


「ところでさ……お泊り用には別の部屋があるわけだけど」


 モンスターに斧を一撃しながら話を切り出す。


「修ちゃんは……別の部屋で寝たい?」


 ああ、もう。寂しそうな顔しないで欲しい。


「お前は寝相悪いから、布団は別に敷いて欲しい」


 そう。百合と一緒に寝るのは別に嫌じゃない。

 ただ、俺のベッドに二人は少々狭い。

 朝起きたら俺が床に落ちてても驚かない。


「むう。寝相の悪さが仇になるなんて……」


 残念そうだけど言い分を認めてくれたらしい。


「あ!いいこと思いついた」


 双剣で敵を斬りつけながらの宣言。

 ああ、嫌な予感がする。


「一応聞いておくけど。なんだ?」

「あっちの部屋にもう一つ布団を敷けば解決!どう?」

「……」


 寝相の悪さが問題なら、二つ布団があればいい。

 見るともう決定したかのようにハイテンションで。

 ぶんぶんと無差別に周囲のモンスターを攻撃している。


「おっけ。じゃあ、あっちの部屋で寝るか」

「やったー。大好き!」


 コントローラーを手放したかと思うと抱きつかれる。

 ま、俺自身も一緒に寝るのは全然嬉しかったりするけど。


◇◇◇◇


 深夜0時。俺たちはといえば。

 

「なんだか、ちょっと懐かしい……」


 常夜灯の薄明かりだけが周りを照らす。

 本来、百合のための来客用部屋だ。

 しかし、今は布団を並べて一緒に寝ている。


「昔、おじさんたちが夫婦旅行の時にうちで一緒に寝たよな」


 いつの頃かはもう思い出せない。

 夫婦の用事がある時は相手の家に預けられるのが当たり前。

 小さな頃はそんな関係だった。


「うん。でも、あの時は今みたいなのじゃなかったよね」


 少し、眠そうな声。

 隣同士の俺たちは手と手を繋いでいる。


「小学生でこんなことしてたら仲良すぎだろ」


 でも、そういえば。


「百合が「一緒の部屋で寝たい!」とか言ってたんだよな」


 うちの両親も仕方ないかと一緒の部屋に俺たちを寝かせたのだった。


「だって。一人だけ別の部屋とか寂しかったんだもん」

「ま、そうだよな」


 言っている内に少しずつ眠気がしてくる。


「眠い?」

「だいぶ頭がぼーっとして来た」

「そっか。私もだいぶ」


 ちらりと横を見れば目が閉じたり開いたり。

 確かに眠くなってるようだった。


「結婚したら、こういうのも当たり前になるのかな?」

「どうだろう。なってそうな気もするな」


 言っている間にどんどん眠くなってくる。


「寝る前に。お休みのキスとかいい?」

「ああ」


 もう恥ずかしさより眠気が上回っていた。

 ゴソゴソと音がしたと思ったら、ちゅっと湿った感触。


「じゃあ、お休み。明日は起こしてね?」

「了解」


 こうして、二人で仲良く眠りについたのだった。

 ほんと、受験も近いのに何やってるんだか。


☆☆☆☆第8章あとがき☆☆☆☆

冬のはじまりにやっぱりいちゃついてる二人でした。

両親もほぼ公認。自重しなくなってる辺りずぶずぶです。


第9章は今度こそ受験シーズンの話……の予定です。

ただイチャイチャするこのお話もそろそろ終わりが近いですが、

二人を見守ってくださる方は応援コメントや

レビューいただけると嬉しいです!

☆☆☆☆☆☆☆☆

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